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【旬の判例】~第85回 「スター・ジャパン事件」

第85回は、スター・ジャパン事件
【東京地裁令和3年7月14日判決 労働判例1325号52頁】です。

本件では、経理部長の管理監督者性が争われました。

1 事案の概要

Xさんは、医療機器を世界各国で販売しているスター・サージカル・グループの100%子会社日本法人(以下「Y社」)において、平成28年以降、経理部長として勤務していました。
その後、Xさんは、平成28年6月から令和元年11月までの割増賃金の未払いがあるとしてY社を提訴しました。

2 管理監督者制度の趣旨

労働契約法41条2号は、管理監督者には労働時間、休憩及び休日に関する労基法の規定を適用しないと定めています。

その趣旨は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者については、その職務及び責任の重要性に照らし、労働基準法上の労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されること、また、その者が自己の労働時間についての裁量を有しており、賃金等について一般の労働者に比べ高い水準の待遇を受けているのであれば、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、労働基準法1条の基本理念に反しないことにあるとされています(本判決引用)。

3 本判決の概要

本判決は、以下のとおり判示して、Xさんは管理監督者には該当しないと判断し、Xさんの割増賃金請求を認容しました。

①業務内容・権限
Xが担当する業務は経理業務全般とされ、例示として、米国親会社への財務報告、支払い管理、経理従業員のマネジメント等が挙げられていた。

しかしながら、その実体は、個々の取引についても、米国親会社の承認が必要とされるものであった。

また、法人形式的に見れば、Y社と親会社である外国法人は別会社であり、Y社経理部門の従業員にとっての直属の上司はXのみであるが、その実体は、外国法人からもY社経理部門の従業員に対して、「何かあれば自分達に報告するように」との指示が出されており、外国法人―X及びY社従業員というレポートラインが存在していた。

②採用等
Xは、採用選考に関与していたものの、Xの希望通りに採用選考がされたことはなかった。

③労務時間管理
Xの部下はわずか4名ほどであることに加え、Xの労働時間の中でマネジメント業務を行っている時間はわずかであり、その大半は従業員と同様の経理業務に充てられていた。

④まとめ
以上の点を踏まえると、労働条件の決定その他労務管理について、Xが経営者と一体的な立場にある者ということはできないし、Xには自己の労働時間について裁量があったも言えないから、Xの年収は1170万円と比較的高額なものであったとしても、原告が管理監督者に該当するとは認められない。

⑤別法人からの指揮命令
なお、Y社は、管理監督者性の判断は、Y法人の組織体制のみを考慮して判断されるべきであって、親会社等の他の法人との関係を考慮するべきではないと主張するが、外国法人―X及びY社従業員というレポートラインが存在していたことはY社自身も認めているのであって、Y社における形式的な権限がXにあったことのみをもって管理監督者性を判断することは労働基準法37条の潜脱になりかねないものであり、Y社の主張は採用できない。

4 おわりに

今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
従業員から未払い賃金訴訟を提起された際に、管理監督者であることを主張して争いたいというご相談は多々いただきますが、上記裁判例を踏まえると、管理監督者の認定は容易なものではないというのが実情でございます。

使用者様の立場からしますと頭の痛い問題であるとは存じますが、本稿がリスク管理の一助となれば幸いです。 

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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