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【旬の判例】~第67回 「学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件」

第67回は、学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件【京都地裁令5.5.19判決】です。

本件では、外国語非常勤講師を対象とした雇止めの適法性が争点となりました。

1 事案の概要

平成29年4月~令和2年4月
:Xさんは、関西福祉科学大学(以下「Y法人」といいます。)で外国語非常勤講師として勤務し、毎週水曜日と金曜日に各5コマの授業を行っていました。契約期間は毎年単年でしたが、令和2年4月まで、合計4回の契約更新がされていました。

令和2年12月
:Y法人からXさんに対して、次年度は契約を更新しない旨の通知(以下「本件雇止め」といいます。)がされました。
⇒これを不服としたXさんは、Y法人に対し、従業員としての地位確認請求及びバックペイ(賃金)の支払い請求を申し立てました。

2 雇止めの適法性を巡る判断基準

労働契約法19条は、①実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合における雇止め、②契約更新に対する合理的な期待が生じている場合における雇止めを、それぞれ解雇に準じるものとして制限しています。

②の合理的理由については、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、使用者の言動等を総合考慮して個々の事案ごとに判断すべきとされています(H24.8.10基発0810第2号)。

そのような中で、本判決は、契約更新への合理的期待が高かったとは必ずしも言えない事案において、Y法人が指摘した契約不更新の理由もまた根拠が乏しいものであることに着目し、従来の判決の判断枠組みとは一線を画しつつ、雇用主と被用者両者のバランスを図り、本件雇止めを違法と判断した点に特徴があります。

3 本判決の概要

(1)契約更新に対する合理的期待が高いものとは言えないこと

①Y法人の就業規則には、学園の財務状況、教育課程編成の動向等の影響により契約の更新を行わない場合があることが明記されていること、②Xが担当していた教科は、外国語コミュニケーションという1分野のみにすぎず、短期雇用でも差支えのない業務内容であること、③Y法人が契約更新への期待を生じさせるような言動をXに対して示したことは伺われないこと、④本件労働契約は4回更新されたに過ぎないこと等の事情からすれば、本件でXに生じていた契約更新への合理的な期待は高いものであったとまでは認められない。

(2)契約更新に対する合理的期待が完全になかったとまでは言えないこと

しかしながら、Xが担当していた外国語コミュニケーションは、Y法人の1年次、2年次における必修科目となっていたこと、Xは4年間に渡って安定的に5乃至6コマを担当してきたこと等に照らせば、契約更新に対する一定の合理的期待は認められるべきである。

(3)本件雇止めの客観的合理性及び社会的相当性

①本件雇止めは、学生からの授業評価アンケートの結果も考慮して行われたものであるところ、Y法人は、「Xの評価は、全体平均に比して著しく低かった。」と主張している。しかるに、「この授業を受講してよかった」という回答をした全体平均が3.82%であるところ、Xの授業を受けた学生のうち同回答をした割合は3.39%となっており、0.4ポイントほど低くなっているとは言えるとしても、当該差異をもって著しく低いということまではできない。

②また、一部の学生から申し出がされていたXの授業への不満について、Y法人からXに対して指導を行った事実を確認することができないことも踏まえると、真摯な意見が必ずしも担保されているとは言い切れない授業評価アンケートのわずかな差異のみを根拠として本件雇止めを行ったことは、社会的相当性に欠ける違法な処分と認められる。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
無期転換申込権が生じる有期労働契約通算5年を迎える前に、雇止めを行いたいという企業のニーズは決して小さくはないものがあると思います。
もっとも、有期労働契約通算5年を迎える前であっても、裁判実務を踏まえた利益衡量を意識した対応が必要になるところでありますので、顧問先の皆様におかれましては、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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