第82回は、日本郵便(寒冷地手当・札幌)事件【札幌地裁令和5年11月22日判決 労働判例1320号46頁】です。
本件では、時給制契約社員に対する寒冷地手当不支給の適法性が争われました。
1 事案の概要
Xさんは、有期労働契約を締結して時給制契約社員として採用されていました。Y社における諸手当のうち、寒冷地手当については、正社員には支給されていましたが、時給制契約社員には支給されていませんでした。
→Xさんは、Y社に対して、寒冷地手当の不支給は違法であるとして、損害賠償などを求めて訴訟を提起しました。
2 労働契約法の定め
労働契約法においては、有期雇用労働者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者との労働条件が相違する場合には、当該「相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」とされていました(旧労働契約法20条)。
そして、労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮するべきものとされております(長澤運輸事件・最判平成30年6月1日民集72巻2号202頁)。
現在では、同趣旨の規定が短時間・有期雇用労働法8条にあります。
3 本判決の概要
(1)正社員の基本給は、全国一律に定められていることから、寒冷地手当には、寒冷地域に勤務することにより冬期に発生する燃料費等の多額の出費を余儀なくされる正社員の生活費を填補することにより、それ以外の地域に勤務する正社員との均衡を図り、これにより円滑な人事異動を実現するという趣旨を含んでいる。
(2)他方で、時給制契約社員の基本給は、地域ごとの最低賃金額を基準として決定されている。地域別最低賃金額は、地域における労働者の生計費を考慮要素とし、灯油等への支出金額も検討材料とされている。したがって、寒冷地に勤務する時給制契約社員の基本給は、既に寒冷地であることに起因して増加する生活費が一定程度考慮されているといえる。
(3)正社員と時給制契約社員の基本給は異なる体系となっている上、時給制契約社員の基本給はもともと各地域の生計費の違いが考慮されており、寒冷地域に勤務することにより増加する生活費が全く考慮されていないものではない。
(4)以上の点などを考慮すると、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給するか否かは、Y社の経営判断に委ねられているものといわざるを得ない。
(5)そうすると、寒冷地手当の不支給が不合理であるとまでいうことができず、労働契約法20条に違反するとまでは認められない。
4 おわりに
今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
本件のように、正社員と有期雇用労働者との賃金の差異が不合理であるとして、是正を求める訴訟は、全国で多数ございます。当該紛争においては裁判実務を踏まえた対応が必要となるところですので、顧問先の皆様におかれましては、本件と同様のお悩みが生じた際には、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 小川 頌平(おがわ しょうへい)
札幌弁護士会所属。
2025年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。