『ビジネス法務』2020年7月号の「特集」は「変化を捉え、適切な社内体制を構築する〜優先的地位濫用と下請法規制の新展開」です。公取委による「優先的地位の濫用」の適用場面が広がりを見せています。優先的地位の濫用は分野横断的に取引の「公正性」を追求・実現することができる一方、何が「違反行為」となるかが明瞭でなく、対応に迷う企業担当者も多いと聞きます。本特集では優先的地位の濫用規制につき、過去の審決・判例、近時の国内外の執行動向を整理し、企業担当者として持つべき社内体制整備の視点を紹介します。また、「うっかり」違反が多大なレピュテーション毀損につながりやすい下請法実務について取り上げ、近時の傾向、業種別の留意点をおさえます。
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内容
◇優先的地位の濫用規制の現在地と将来像◇「優越的地位」・「濫用行為」の判断枠組み
◇法務担当者が持つべき視点と社内体制整備の具体策
◇優先的地位の濫用に対する公正取引委員会の取り組み
◇海外における濫用規制の考え方
◇近時の下請法の傾向と対策
◇下請法規制の業種別留意点と社内対応策
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 優越的地位の濫用とは,独占禁止法(以下,「独禁法」)19条により禁止される「不公正な取引方法」の一種です。「不公正な取引方法」は,同法2条9項に定義されています。
優越的地位の濫用には,まず,独禁法2条9項5号により定義されているものがあり(法律に直接規定されているため,「法定優越的地位濫用」と言われます。),また,独禁法2条9項6号による委任を受けて公正取引委員会(以下,「公取委」)が指定するものがあります。この公取委が指定するものを「6号指定」といい,6号指定された優越的地位濫用のことを,指定の項番号から「一般指定13項」などと言います。
ややこしいので,優越的地位の濫用には,「法定優越的地位濫用」と「一般指定13項」の2種類があると理解していただけば十分です。
2 この区別にしたがい,規制に違反した場合の措置が変わります。法定優越的地位濫用の規制に違反した場合,公取委による排除措置命令(独禁法20条)が発せられるほか,継続してなされていた場合には課徴金納付命令(独禁法20条の6)の対象となります。他方,一般指定13項の規制に対する違反は,課徴金の対象とはされていません。過去には,30億円を超える課徴金の納付命令が出されたこともあり,違反に対する措置は相当重いといえます。
3 本稿は,法定優越的地位濫用に関し,「優越的地位」とは,また「濫用行為」とは,ということについての判断基準を,公取委による判断例に基づいて分析するものであり,大変専門的な内容になります。取引実務上は,独禁法上にいう優越的地位の濫用に該当しない場合でも,過剰な要求になっていないか,取引通念に照らして適正な範囲内で取引となっているかという観点を相互にもつことで,無用な紛争を回避することも重要です。発展的な内容ですが,経済法の考え方の一端を見ることができる興味深い記事ですので,この機会にご一読いただければと思います。
(弁護士 菊地 紘介)