『ビジネス法務』2021年7月号の新連載は「売買契約(不動産)」です。改正債権法が2020年4月1日に施工され、1年が経過しました。新型コロナウィルス感染症の影響で、実務動向が把握しづらい面があるものの、改正債権法は多方面に影響を及ぼしています。本稿では、不動産の売買契約に関連して、契約書式の方向性が二分されるといった実務の状況や、改正債権法が惹起した問題点などが紹介されています。
- Ⅰ 債権不履行解除
- Ⅱ 瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換
- 1契約責任説の採用
- 2「瑕疵」から「契約不適合」への転換と実務への影響
- (1)瑕疵の意味
- (2)「隠れた」という要件の削除
- 3買主の権利
- (1)追完(補修)請求権
- (2)代金減額請求権
- (3)損害賠償請求権
- (4)解除権
- 4契約金条項と契約不適合による解除の関係
- 5免責特約と容認事項
- 6契約不適合責任と錯誤
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 本記事は、2020年4月から施行された改正債権法が、不動産の売買契約に与えた影響を紹介しております。改正債権法のうち、本記事で取り扱われるのは主に以下の条文です。
第562条(買主の追完請求権)
第1項 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。(以下略)
第563条(買主の代金減額請求権)
第1項 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。(以下略)
第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前二条の規定は、第415条(債務不履行)の規定による損害賠償の請求並びに第541条(催告解除)及び第542条(無催告解除)の規定による解除権の行使を妨げない。
2 改正債権法は、売主の責任に関して瑕疵担保責任から契約不適合責任へ転換し、契約不適合責任を明文化させました(562条1項)。
これに対応し、実務上では契約書においてどのような品質が合意されているかが重要であることが再認識され、契約書の特約事項や容認事項を充実させる例が増えています。
もっとも、不動産取引の安定性の要請からは改正債権法とは異なる要件を定める契約書式も多いようです。
例えば、改正債権法で削除された旧法の瑕疵担保責任では、「隠れた瑕疵」、つまり買主が瑕疵につき過失なく知らなかったことが責任追及の要件とされていました。
改正債権法の下でも不動産取引では、買主が現に契約不適合を認識していたにもかかわらず、事後的に売主に責任追及することは不合理であるとの評価が根強く、旧法と同じく買主が契約不適合を知っていた場合には権利行使できないとする契約書式が主流のようです。
3 そして、改正債権法は、買主が売主に対し①修補等の追完請求(562条)、②代金減額請求(563条)、③損害賠償請求(564条、415条)、④契約解除(564条、541条、542条)といった権利を行使できることを明文化したため、本記事では①~④ごとに、不動産売買の契約書式における対応が紹介されております。
まず、①は、瑕疵担保責任の頃から明記していたものも多く、実務上直ちに大きな影響を生じるわけではありません。
しかし、②や④を求める場合には、事前に①を催告することが要件として明文化され、③を請求する場合にも①を催告することを要件とすることを肯定する見解があり、まずは①をすることが必須と認識することが重要です。
次に、②は、改正債権法によって「形成権」であると明確になったため、これを行使すると契約不適合部分が契約適合となって引き渡されたとみなされ、その後買主は③や④ができなくなります。
②は③や④によらない場合に行使するものであることを明記する、あるいは②をあえて明記しないものもある一方、買主が②を請求したにもかかわらず売主がこれを遅滞した場合に、買主は③や④ができるとする契約書式もあるようです。
実務上はいずれのタイプの契約書であるか常に確認して、対応を誤らないようにするべきとされております。
また、③については、賠償の範囲が履行利益にまで及ぶことが明確になったことから、収益物件や転売予定物件については賠償額が高額化する可能性があるそうです。
さらに、④の要件として契約不適合について契約目的不達成の要件が削除され、契約不適合が軽微でないこととなりましたが、契約書式では契約目的不達成を残すものが多いとのことです。
4 最後に、違約金条項と契約不適合による解除との関係や、契約不適合責任と錯誤の関係など、改正債権法の気になる論点が詳述されております。是非ご一読ください。
(弁護士 櫻井 彩理)
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)