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【旬の判例】~第62回 「大和高田市事件」

第62回は、大和高田市事件(奈良地裁葛城支部 令4.7.15判決)です。

本件は、障害を抱えた従業員に対する安全配慮義務違反の成否が争われた事案です。

まず、事案の概要について、Xさんは交通事故の後遺症として右足関節機能障害5級の障害を患っているY市の職員です。Xさんは、当初、Y市において、市税の徴収業務に従事していました。その後、Xさんは、平成17年4月1日より、Y市のケースワーカーとして生活保護受給者の自宅を訪問する業務に従事するようになりました。Xさんは、当該業務において、概ね年400回程度の高頻度で生活保護受給者の自宅訪問を行っていました。Xさんの右足の状態について、当該業務に従事するようになってから徐々に悪化し、平成22年には歩行が困難となり、手術を要するほどまで状態が悪化しました。Xさんは、Y市に対し、自身の障害に配慮せずに当該業務に従事させたことがY市の安全配慮義務違反に当たると主張し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行いました。

裁判所は、まず、当該業務とXさんの右足の症状悪化との間の因果関係について、既存の障害、現実に認められる障害の状態、業務の状況や性質、それが心身に及ぼす影響の程度などを総合勘案し、症状の悪化と業務との因果関係を判断するのが相当であるとの判断枠組みを示しました。その上で、裁判所は、Xさんの右足の状態について、当該業務に従事してからXさんが右足を庇って不自然な歩き方をするようになったことや、遅くとも平成22年には歩行困難な状態となっていたこと(既存の障害、現実に認められる障害の状態)、訪問の頻度が多く右足への負担が相当大きい業務であること(業務の状況や性質、心身に及ぼす影響の程度)を認定し、当該業務とXさんの右足の症状悪化との間の因果関係を認めました。

次に、裁判所は、Y市の安全配慮義務について、使用者は、労働者の生命・健康が損なわれないよう安全を確保するための措置を講ずべき義務を負っており、労働者が現に健康を害し、そのため当該業務にそのまま従事させる際に健康を保持する上で問題があり、あるいは健康を悪化させるおそれがあるときには、速やかに労働者を当該業務から離脱させ、又は他の業務に配転させるなどの措置を取るべき義務を負うと判示しました。その上で、裁判所は、Xさんの自己申告書や身障者手帳のコピーの提出によりY市がXさんの身体傷害を把握するとともに、Xさんの上司を通じてXさんの業務負担や病状を容易に知り得る状態にあったのであるから、Xさんの状況を把握した上、その業務負担を軽減する措置をとり、あるいは担当業務を変更する等の措置を講じる義務を負っていたと認定しました。そして、Y市がそのような措置を講じることなくXさんに当該業務に従事させていたことにつき、Y市に安全配慮義務違反があると認定し、Xさんの損害賠償請求を認容しました。

本判決は、障害者雇用の従業員に対する安全配慮義務違反の成否が問題となった事案であり、同様の判断枠組みを示す裁判例がいくつか存在します。本判決は、障害者雇用の従業員の労務管理にあたって参考となる事案です。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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