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【旬の判例】~第84回 「テレビ東京制作事件」

第84回は、テレビ東京制作事件【東京地裁令和5年6月29日判決 労働判例1324号61頁】です。

本件では、事業場外労働時間みなし制度の適否が争われました。

1 事案の概要

Xさんは、株式会社テレビ東京制作(以下「Y社」といいます。)との間で労働契約を締結し、テレビ番組制作業務に従事していました。
→Xさんは、Y社に対して、未払の残業代等の支払いを求めて訴訟を提起しました。

Y社は、Xの制作業務は、「労働時間を算定し難いとき」(労働基準法38条の2第1項本文)に当たるとして、所定労働時間は1日7時間になると主張しました。

2 労働基準法の定め

労働基準法による労働時間規制は、実際に労働者が労働した時間(実労働時間)を算定し、実労働時間に基づいて行うことが原則となります。

もっとも、労働者が事業場外で労働する場合には、実労働時間の把握が困難となることも多くあります。そこで労働基準法においては、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」との規定があります(同法38条の2第1項)。すなわち、①事業場外労働で②労働時間を算定し難いことが要件となります。

3 本判決の概要

・Xは、制作業務を一人で担当していたところ、企画・取材・撮影は、Y社の事業場外での労働が中心であり、編集についても事業場外の編集所で行う場合が多かった。

・他方で、上司は、企画書などに基づき、Xから報告された日々の作業内容に基づいて進捗を確認し、指揮命令を行うことができた。

・また、始業・終業時刻は、携帯できる端末でどの場所からでも入力できる勤怠管理のシステムで報告することとされており、上司は、始業・終業時刻を確認することができた。

・放送局及び取材先との会合費は領収証とともに報告がされており、これによりXの報告した作業内容の真実性を確認することもできた。映像の編集を行う編集所からは、番組ごとの利用日及び時間帯がY社に報告されていたから、これにより編集作業時間を確認することができた。

→以上のことからすると、原告の制作業務は、おおむね事業場外の労働であったといえるが、上司は、Xの労働時間を把握するため具体的な指揮監督を及ぼすことが可能であった。
→「労働時間を算定し難いとき」に当たらない。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
従業員の事業場外労働に対して、みなし労働時間制を導入したいという使用者のニーズは一定数あるものと存じます。
もっとも、みなし労働時間制の適用においては裁判実務を踏まえた対応が必要となるところです。ですので顧問先の皆様におかれましては、みなし労働時間制に関するお悩みが生じた際には、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 小川 頌平(おがわ しょうへい)

札幌弁護士会所属。
2025年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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