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【旬の判例】~第68回 「セントラルインターナショナル事件」

第68回は、セントラルインターナショナル事件(東京高裁 令4.9.22判決)です。

本件は、降格処分の有効性や安全配慮義務違反の有無が争われた事案です。本件の第一審では、降格処分が有効であると判断されたのに対し、控訴審では降格処分が無効であると判断されました(なお、安全配慮義務違反については、第一審、控訴審ともに安全配慮義務違反があると判断されています。)。

事案の概要について、Xさんは、Y社における業務過多や上司との関係悪化等により精神疾患を発病しました。Xさんは、そのような心理的負荷のかかった状況下において、上司を中傷するメールを得意先に送信したり、独断で取引先に取引解消を申し入れたりする等、Y社就業規則の懲戒事由に該当する行為を複数行っていました。そこで、Y社は、Xさんに複数の処分事由が存在することを認定し、Xさんを降格処分(以下、「本件降格処分」といいます。)としました。これに対し、Xさんは、本件降格処分について、社会通念上の相当性を欠くとして無効であると主張するとともに、本件降格処分の無効を前提として、Y社に対し、降格前の賃金との差額の未払賃金の支払を求めました。また、Xさんは、Y社の業務により発病した精神疾患について、Y社に安全配慮義務違反があるとして、Y社に損害賠償等を請求しました。

第一審では、Y社の安全配慮義務違反を認定した上で、本件降格処分の有効性について、Xさんに複数の処分事由が存在することを認定した上、Xさんを降格処分とすることにつき相当性を有すると判断し、本件降格処分は有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、①Xさんが複数の処分事由を引き起こした原因がY社の業務や上司との関係性に起因した精神疾患を発病したことであること、②XさんがY社に業務改善の申入れをしており、Xさんの心身の異常やその原因となる事情について認識可能性を有していた点に着目し、本件降格処分は重きに失し、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くとして、無効であると判断しました。

本件は、従業員に複数の処分事由が認められる事案ですが、その背景事情を踏まえて降格処分の有効性が検討されている点に特色があります。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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