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【旬の判例】~第73回 「月光フーズ事件」

第73回は、月光フーズ事件【東京地裁令3.3.4判決 労働判例1314号99頁】です。

本件では、飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性(未払い賃金の有無)が争点になりました。

1 事案の概要

Xさんは、平成25年から平成30年まで、お好み焼き等の飲食店を経営する株式会社であるY社に勤務していました。

Xさんは、Y社が運営する店舗のうちの店舗Aと店舗Bで勤務をし、店舗Aでは店長を務めていました。月額基給は31万でしたが、定額残業手当として10万円が定められていました。

退職後、XさんはY社に対して、2100万円の未払い賃金の支払いを求める労働審判を提起しましたが、Y社が労働審判に対して異議を出したため、訴訟に移行しました。

2 未払い賃金を巡る紛争

従業員が退職後に、『雇用契約書には、平日8時間勤務と記載されていたが、実際はもっと働いていたので未払い賃金が生じているはずである。』との主張をして、未払い賃金の請求をしてくることは少なくありません。

裁判例においても、「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則等の定めの如何により決定されるべきものではない。」(最一小判H12.3.9民集54巻3号801頁)とされています。

3 本判決の概要

本判決も、上記と同様の判示をし、以下の事実関係に着目をして、ほぼ満額の2000万円の未払い賃金と、さらには1500万円の賦課金(罰則金)の支払いを命じる判決を下しました。

①約書等の定めについて

本件契約書には、月額31万4663円・定額残業手当月額10万1869円・週40時間の変形労働時間制とする旨の規定がある。

しかしながら、定額残業の規定は、基本賃金部分と残業部分との区分明瞭性を欠いた無効なものであると言わざるをえず、また、変形労働時間に係る規定についても労基署への届け出がされておらず、従業員への周知も十分にされていなかった等の事情からすれば、有効なものとは言えない。

②Xの業務内容について

Xは、基本的にはY社の店舗本部が作成するシフト表通りに勤務をし、調理業務、ホール業務、開店準備、閉店後の清掃、レジ業務、仕込み等店舗における一切の業務を担当していた。

③Xの勤務時間管理について

店舗Aにおいては、タイムカードが存在していたが、タイムカードを使用しないように指示が出されており、Xは毎月月末に勤務実績報告書を提出することによって勤務時間を報告していた。

もっとも、Xは休憩をしていなくても、2時間の休憩をとったものとして記載をしていた。

④休憩時間の状況について

店舗Aにおいては、ランチタイムの営業は14時まで、ディナータイムの営業開始は17時からとなっており、この間の3時間(以下「本件休憩時間」)をXの休憩時間として算定して賃金が支払われていた。

しかしながら、Xらの尋問によれば、①ランチタイムの客が完全にいなくなるのは14時30分頃であり、また、②本件休憩時間の時間帯に、Xは不足食材の買い出し、アルバイトのシフト作成、予約の電話対応、ディナーの仕込み等を行っていた。特に、予約の電話対応については、本件休憩時間帯にはアルバイトスタッフがいないため、Xが常時待機していることが必要になる状況となっていた。また、ディナー営業の開始時間は17時であったが、16時30分頃からは鉄板の温度を上げる等の準備が必要であった。

⑤小括

以上の事実を考慮すると、本件休憩時間においても、XはY社の指揮命令下にあったものと評価できる。
また、未払い賃金の金額が2000万円にも上ることや、定額残業制度やフレックス制度に関する定めが無効であったこと等も踏まえると、悪質な未払い事案と言わざるを得ず、賦課金の支払い義務も課すのが相当である。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
顧問先の皆様からも未払い賃金紛争に関するご相談をいただくことは多々ありますが、本件は、未払い賃金の発生を未然に防止したい会社様におかれても、参考になる着眼点が多くあるものと存じます。
本稿をきっかけとして、休憩時間の管理体制についての見直しを図っていただけましたら幸いです。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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