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【旬の判例】~第74回 「日本コーキ事件」

第74回は、日本コーキ事件【東京地裁令3.10.20判決】です。本件では、試用期間中の解雇の有効性が争点となりました。

1 事案の概要

Xさんは、平成30年11月9日、食用油ろ過機の製造等を業とするY社との間で、試用期間を3か月とする、期間の定めのない労働契約を締結しました。その後、Y社は、同年12月13日、Xさんを解雇しました(以下「本件解雇」といいます。)。

なお、就業規則には、「試用期間中または試用期間満了時に、技能、勤務態度、人物及び健康状態に関して、従業員として不適当と認めたときは解雇する」との定めがありました。
⇒これを不服としたXさんは、Y社に対し、従業員としての地位確認請求やバックペイ(賃金)の支払い請求等を申し立てました。

2 試用期間中の解雇の有効性を巡る判断基準

試用期間中の留保解約権に基づく解雇の有効性について、判例は、「当初知ることができず、また知ることができないような事実を知るに至った場合において、その事実に照らし、労働者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に相当であると認められる場合には、解約権の行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当なものとして許される」としています(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)。

3 本判決の概要

(1)Xが即戦力として期待されるのが自然であること

Y社では、即戦力となる溶接の経験者を雇い入れる必要性が高かった。
他方で、Xは、採用申込みにあたり、添え状にTIG溶接を主に経験してきたこと、履歴書にTIG溶接が得意であること、職務経歴書に他社でTIG溶接の技術指導を行ってきたことなどを記載していた。そうすると、Xを、即戦力として期待できるものと受け取るのが自然である。

(2)試用期間中の作業内容を吟味するまで本採用を留保したことには、合理的な理由があること

Xは採用面接時の作業テストにおいて、TIG溶接を満足に行うことができなかった。もっとも、①TIG溶接について経験があり、すぐに勘を取り戻せる旨を述べていたこと、②TIG溶接の手順自体は習得していたこと、③作業テストは短時間であったこと、④履歴書等の内容などからすれば、Xの上記発言を信じ、試用期間中の作業内容を吟味して本採用するか否かを決定するとしたことには、合理的な理由がある。

(3)Xの実際の技術水準と、期待される水準との間には、乖離があったこと

ところが、Xが製作した製品のほとんど全てが商品にならないものであった。そのため、Xの実際の技術水準と、履歴書等や作業テスト時におけるXの言動から期待される水準との間には、相当程度の乖離があったと認められる。

(4)結論

Xは上司から溶接不良の原因について具体的な指摘を受けていたにもかかわらず、その後も溶接不良が改善されなかった。
そして、Xが製作した製品の数は合計で数百点に及び、Xの技術水準を判断するには十分であったから、Yにおいて、試用期間の満了を待たずに、Xが期待された技術水準に達する見込みがないと判断したことにも合理的な理由がある。
以上によれば、本件解雇は解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものと認められる。
したがって、本件解雇は有効である。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
新規採用した従業員について、試用期間中の勤務状態を見た結果、解雇を行いたいという企業のニーズは決して小さくはないものがあると思います。
もっとも、試用期間中やその満了時での解雇は、個々の事情に応じて、裁判実務を踏まえた対応が必要になるところでありますので、顧問先の皆様におかれましては、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 小川 頌平(おがわ しょうへい)

札幌弁護士会所属。
2025年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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