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【旬の判例】~第83回 「東光高岳事件」

第83回は、東光高岳事件【東京高裁令和6年10月17日判決 労働判例1323号5頁】です。

本件では、事業再生M&A後の再雇用契約が争われました。

1 事案の概要

Xさんは、ソフトウェア事業等を行うユークエスト株式会社と無期労働契約を締結していたところ、令和2年9月に、60歳の定年を迎えたため、基本賃金を30万円とする1年間の有期契約を締結していました(社内規定によれば、原則として65歳まで雇用)。

もっとも、その後、ユークエスト株式会社は、令和3年7月に、経営不振からY社と吸収分割の方法によって吸収統合することになり、その際、Xさんの雇用契約の内容も月額25万円の内容に変更されることになりました。

Xさんはこれを不服とし、Y社に対し、従前とおりの雇用契約の内容に基づく賃金の支払いを求めて本件訴訟を提起しました。

2 有期労働契約の更新等

労働契約法第19条には、以下の規定があります。

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

3 本判決の概要

本判決は、以下のとおり判示して、Xの請求を棄却しました。

①ユークエストの社内規定には、原則として希望者を65歳まで再雇用する旨が記載されている一方、再雇用の際の労働条件については契約更新の際個別に決定する旨の記載がされており、必ずしも従前の内容で契約が更新される旨の保証はされていない。

②他方で、ユークエスト社は、直近2期連続で1億円近くの営業赤字となり、令和3年5月時点では約2億8000万円の債務超過となっていたために吸収分割の方法によりY社の子会社となり再生を図ったという経緯が認められる。

③そのうえで、ユークエスト社においては、Y社との吸収分割の効力が生じる5カ月前から従業員説明会を開催するなどして、ユークエスト社の経営状況を周知していたことが認められ、X自身も、ユークエスト社がY社に吸収されれば労働条件が変更されることになる可能性を少なからず認識していたものと考えられる。

④また、本件は、ユークエスト社社員の勤務条件をY社の元々の勤務条件に適合させたものであるが、仮に、吸収分割後においてユークエスト社の社員とY社の社員との契約内容に差異を設けた場合は、不公平感が生じY社の事業運営に支障をきたす恐れもある。

⑤以上の事実に照らせば、Xの変更後の契約内容は、月額基本給を15%程度下げるものではあるが、変更の合理性は確保されているというべきである。

4 おわりに

今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
本稿が、M&Aを頻繁に行っていらっしゃる会社様にとっての係争削減の一助となれば幸いです。 

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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