『ビジネス法務』2022年7月号の特集は「下請法コンプライアンスの『いま』」です。長引くコロナ禍の影響に加え、原材料価格が高騰し「下請けいじめ」につながりやすい状況がひろがっています。公正取引委員会による「指導・勧告」の件数が毎年過去最高を更新していることからも、企業の対応が進んでいない現状も見受けられます。下請法違反は意図せぬところで発生してしまうことから、下請法規制の現状を正確に把握し、日頃からその遵守に向けての対策を怠らないことが求められます。近時の下請法規制の傾向と対策が説明されています。
- Ⅰ はじめに
- Ⅱ 下請法ガイドラインの改正等の規制の現状について
- 1下請法ガイドラインの改正点とポイントについて
- 2違反行為情報提供フォームその他の措置
- 3手形のサイトの短縮について
- Ⅲ 最近の執行状況(勧告事例)
- Ⅳ 今後の見通し
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
令和4年1月26日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(以下「下請法ガイドライン」という)の改正、下請事業者が匿名で買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報を提供できる「違反行為情報提供フォーム」の設置が行われました。
今回の改正では、下請法で禁止されている「買いたたき」に該当するおそれがある方法として、「原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず,一方的に従来どおりに単価を据え置くこと。」(改正前下請法ガイドライン第4第5項⑵ウ)(下線部は筆者が付記)としていたものを、「労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」(改正後下請法ガイドライン第4第5項⑵エ)(下線部は筆者が付記)に変更しました。
また、新たに「労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」(同ウ)(下線部は筆者が付記)を新設しました。
このように、改定後の運用基準では、「大幅に」という限定がなされていないことに加え、「価格の交渉の場においてに明示的に協議」しないまま取引価格を据え置くことや「価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答」しないまま取引価格を据え置くことが買いたたきに該当するおそれがあることが示されたことで、十分な協議をせずにコストの上昇を取引価格に反映しない取引は買いたたきに該当する可能性があることがより明確化されたといえます。
その他にも、「違反行為情報提供フォーム」は、匿名で違反行為が疑われる親事業者の情報を公正取引委員会や中小企業庁に提供できる仕組みとなっているため、下請事業者からの情報提供が容易になりました。
本記事では、下請法ガイドラインの改正点のポイントや違反行為情報提供フォームについて詳しい解説がなされておりますので、下請法の適用がある取引を行う企業の皆様には、この機会に本記事をお読みいただき今後の取引に役立てていただきたいです。
(弁護士 小西 瑛郁)
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)