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【旬の判例】~第13回 「ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件」

第13回目は「ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件」です。

Xは、労働者派遣事業等を営むロバート・ウォルターズ・ジャパン事件(以下「Y社」といいます。)において、令和2年2月25日、雇用期間を3月2日から同月31日までとする有期労働契約を締結し、A社に派遣されました。しかし、A社は3月19日、Y社に対し、Xの労働者派遣契約を更新せず、31日をもって期間満了により終了する旨を伝え、Y社はその旨Xに通知しました(以下、「本件雇い止め」といいます。)。
XはY社に対し、新型コロナウイルスへの感染を懸念して在宅勤務を求めていたにもかかわらず、XをA社に出社させたり、在宅勤務等を希望するXを疎んで雇い止めにしたり、雇い止めの理由を具体的に説明しなかったりしたことから、これらが不法行為に当たるとして慰謝料等の支払いを求めました。

本件における主な争点は⑴Xの在宅勤務実施に関するY社の健康配慮義務または安全配慮義務違反の有無、⑵本件雇い止めの違法性の有無、⑶本件雇い止めのY社の説明義務違反の有無です。

まず、⑴について、裁判所は、令和2年3月初めは新型コロナウイルスの流行が始まっており、通勤時の感染を危惧する者も少なからずいたと指摘しつつ、他方で、当時は、上記ウイルスに関する知見が未だ十分に集まっておらず、通勤時の感染可能性や危険性の程度が必ずしも明らかになっていなかったとしてY社がA社に対しXを在宅勤務させるように求めるべき義務を負っていたと認められないとしました。
また、Y社がXの要望に理解を示し、A社にXの要望を伝えた結果、出勤時刻が繰り下げられたことや、Xの在宅勤務が実現したことからして、Y社はXに対し、当時の状況下において、「十分な配慮をしていたと言うべきであり、・・・健康配慮義務または安全配慮義務違反があったとは認められない。」としました。

⑵について、裁判所は、①本件労働契約が令和2年2月2日から同月31日までの期間を定めて締結されたものであり、本件雇い止めまで一度も更新されたことがなかったことや、②本件労働契約に更新を予定した条項が定められていたになかったことに照らし「本件雇い止めの時点において、Xに雇用継続への合理的期待があったと認めることはできない。」としました。

⑶について、裁判所は、Y社担当者がXにA社を紹介した際に同社では派遣社員が正社員登用される可能性が高い旨を説明したことが認められるものの上記説明はあくまでA社における正社員登用の一般的な可能性を説明したものに過ぎず、A社での正社員登用を約束したものでもA社への派遣が長期間続くことを保証したものでもなく、仮にXが上記説明を聞いて本件労働契約が更新されて継続することを期待したとしてもそのような期待は法的に保護されるべき合理的な期待と認めることはできないとしました。

本判決は「テレワークの権利」が認められるのかを判断した珍しい裁判例です。
今回、Y社に健康配慮義務違反は認められませんでしたが、市中感染や職場クラスターが急速に拡大している時期においては、ウイルス感染の可能性やその危険性に関する使用者の予見可能性が認められやすくなり、また、労働者が持病等によって一般人よりも高度な感染リスクがあり、その事情を使用者が認識しているケースでは、使用者に高度な配慮措置が求められるといえます。
したがって、「テレワークの権利」はケースバイケースで考慮事情が異なり、認められる可能性も十分あり得ることは注意しておくべきでしょう。

(弁護士 櫻井 彩理)

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