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【旬の判例】~第21回 「日立製作所(降格)事件」

第21回は「日立製作所(降格)事件」です。

本件は、退職勧奨の適法性、及び管理職に対する降格・減給処分の有効性が問題となった事件です。今回は、上記のうち、退職勧奨の適法性に焦点を当てて解説していきます。

事案の概要

本件は、日立製作所(以下「Y社」といいます。)の従業員であるXさんが、Y社から違法な退職勧奨を受けたとして、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事件です。
Xさんは、平成7年にY社に入社した後、平成16年には社費で留学してMBAを取得し、平成20年には管理職に昇格しました。
しかしその後、ヘルニアなどの症状が悪化し、平成28年頃まで休職、復職が続き、成績が芳しくない状況が続いていました(Xさんには、Y社から、「種々の雑務は分担しなくていいので、売り上げに直結する仕事を優先的にこなしてくれ。」という指示がありながら、Xさんは、1年9か月にわたって売り上げを全く上げることができていませんでした。)。

退職勧奨の適法性判断に関する一般論

労働者に自主的な退職を勧める勧奨行為にとどまっている限り、退職勧奨それ自体を行うことは使用者の自由であって、整理解雇をする時のような厳格な要件(①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定の妥当性、④手続の妥当性のいわゆる『整理解雇4要件』)が求められているわけではありません。
もっとも、退職勧奨が、対象とされた労働者の自発的な退職意思の形成を促すという本来の目的を超えて、社会通念上相当とは認められないほど執拗に行われるなど当該労働者に対し不当な心理的圧力を加えるような態様で行われたり、その名誉感情得を不当に侵害するような言辞を用いて行われたような場合には、不法行為を構成するとされています(日本アイ・ビー・エム事件 東京地判H23.12.28)。

本件退職勧奨の具体的内容

本件で、Y社は、Xらの成績不良社員5名を対象として、フォローアップ研修(以下「本件研修」といいます。)を行いましたが、本件研修では、「研修対象者らは、管理職に値しない成果しか挙げておらず、Y社内でのミッションに就くことは極めて難しい。自身のためにも、転職に活路を見出してほしい。」などの内容が記載されたスライドが示されていました(以下「本件勧奨①」といいます。)。
また、本件研修の際に転職の勧めを一度断ったXら社員に対して、再度、転職を勧める面談が行われました(以下「本件勧奨②」といいます。)。

裁判所の判断

裁判所は、本件勧奨①、②いずれについても、次のとおり指摘して、違法な退職勧奨とまでは言えないと判断しました。

・本件研修で使用されたスライドは、Xらに精神的打撃を与える内容であったことは想像に難くないが、本件スライドは、Y社におけるXらの評価を記載したものにすぎず、Xらの名誉感情を不当に害するような社会通念上許容されない表現は用いられていない。

・また、本件研修は、Xらに転職を促す内容となっている一方、Y社に残ることを希望する参加者には、残留を前提としたキャリアプランの提示もされていたことからすると、本件研修は、Xらの自由意思を妨げるほど執拗な態様で行われていたものとまでは認められない。

・本件勧奨②については、一度退職勧奨に応じる意向がないことを明らかにしていたXらに対し、再度の勧奨を行っている点で、Xらの意向を無視した退職勧奨が行われていたことを疑わせる余地もなくはないが、本件勧奨②は、「広い視野を持って改めて考えてみてほしい。」という趣旨の発言をもって行われていたにすぎず、未だXらの自由意思形成を妨げるような態様で退職勧奨が行われたものとは言えない。

おわりに

本件は、あくまで事案に応じた判断がなされたものであり、『残留プランを提示してさえいれば、違法な退職勧奨にはならない』というテーゼを示したわけではありません。
もっとも、退職を促す一方で、本人の意向を尊重する残留プランも提示することは、退職勧奨の適法性を保つ1つの要素となることを示している判決と言えるかと思います。

今回もお目と通しいただき、ありがとうございました。
退職勧奨をせざるを得ない場面に遭遇された場合に、本稿がご参考となれば幸いです。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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