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【旬の判例】~第86回 「明治安田生命保険事件」

第86回は、明治安田生命保険事件
【東京地裁令和5年2月8日判決 労働判例1327号97頁】です。

本件では、見習契約期間の試用期間該当性が争われました。

1 事案の概要

Xさんは、令和2年3月10日、アドバイザー見習契約(労働契約、以下「本件見習契約」といいます。)を締結し、生命保険会社であるY社の業務に従事していました。

Y社では、見習契約の期間中に採用基準を満たせばMYライフプランアドバイザー(営業職員のこと、無期労働契約となる)として採用されることになっていました。

Y社は、同年7月17日、XさんをMYライフプランアドバイザーとして労働契約を締結することはできない旨を通知しました。

→Xさんは、Y社に対して、労働契約上の地位確認等を求めて訴訟を提起しました。

2 労働契約法の定め

労働契約に期間の定めが付された場合、それが有期雇用なのか、それとも試用期間なのかが問題となります。

この点について、判例では、「使用者が労働者を新規に採用するにあたり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である」としています(神戸弘陵学園事件、最判平成2年6月5日民集44巻4号668頁)。

また、労働契約法においては、有期労働契約の期間満了時に契約が更新されるとの期待について合理的な理由があると認められる場合には、有期労働契約は更新されるものと定めています(19条2号)。

3 本判決の概要

(1)無期労働契約が締結されたといえるか

労働者の適性を把握するために有期労働契約を締結すること自体は許容されている。本件見習契約の期間においては、労働者の適性を評価することが予定されており、さらに実態としてはほとんどの者がMYライフプランアドバイザーに採用されるという事情はある。

もっとも、本件見習契約ではその終期が明示的に定まっている(見習契約全体の期間を通算すると4か月が限度となる)以上は、これを試用期間と解することはできない(本件では、期間満了により見習契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しており、神戸弘陵事件でいう「特段の事情」があるといえる)。

(2)更新の合理的期待の有無

本件見習契約は有期労働契約であるのに対し、MYライフプランアドバイザーとしての雇用契約は無期労働契約であり、全く別の契約であるというべきである。よって、MYライフプランアドバイザーとして採用されるために労働契約を締結することは新たな契約の締結というべきであって、労働契約法19条2号にいう「更新」には該当しない。したがって、仮にXに採用基準を満たせばMYライフプランアドバイザーとして採用されることについて期待があったとしても、同法19条2号にいう合理的な期待があったとはいえない。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
新規に雇い入れた従業員について、勤務状態を見た結果、期間満了後に契約を締結しないという判断を使用者がすることは決して珍しいものではないと思います。

もっとも、見習期間終了後の契約更新拒絶は、個々の事情に応じて、裁判実務を踏まえた対応が必要になるところでありますので、顧問先の皆様におかれましては、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 小川 頌平(おがわ しょうへい)

札幌弁護士会所属。
2025年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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