弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【ビジネス法務】インボイス制度に対する企業法務対応(上)

『ビジネス法務』2023年4月号の実務解説は「インボイス制度に対する企業法務対応(上)」です。今年2023年10月から導入される消費税法上の適格請求書等保存方式について、企業は主として経理担当の管理部門を動かして対応を進めています。もっとも企業は、適格請求書発行事業者登録を行わない免税事業者である課税仕入れ先との間で、取引価格の減額などの対応をすることもあるかもしれません。この新しい制度について解説されています。

  • Ⅰ インボイス制度導入の背景
  •  1わが国の消費税法の仕組み
  •  2納税義務の免除
  •  3わが国の消費税法の問題点
  • Ⅱ インボイス制度への対応
  •  1インボイス制度の概要
  •  2適格請求書発行事業者の登録手続
  •  3インボイス制度の導入により生じる不利益
  •  4経過措置
  • Ⅲ インボイス制度に関するFAQ

 <PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>

1 はじめに

 本稿では、令和5年10月1日から始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)についての解説が行われています。

インボイスとは、①インボイス発行事業者の名称・登録番号、②取引年月日、③取引内容、④取引金額・適用税率、⑤消費税額等、⑥書類の交付を受ける事業者の名称が記載された請求書や納品書等を指します。インボイス発行事業者とは、税務署に対し、インボイスを発行することができる事業者として登録申請し、税務署から登録が認められた事業者を意味します。

インボイスは、今後、次項で述べる消費税の仕入税額控除を受ける際に必要となります。

2 インボイス制度導入の背景

(1)現行の消費税法の仕組みについて(仕入税額控除について)

 例えば、ある商品について、製造業者A→卸売業者B→小売業者C→消費者Dへと転々流通し、それぞれの取引価格が、①AからBへの販売価格が1000円(+消費税100円)、②BからCへの販売価格が2000円(+消費税200円)、③CからDへの販売価格が3000円(+消費税300円)であったとします。

 この場合、現行の消費税法上、Aが納税すべき消費税の税額は100円、Bが納税すべき消費税の税額は100円(Cから受領した消費税200円-Aに支払った消費税100円の残額)、Cが納税すべき消費税の税額は100円(Dから受領した消費税300円-Bに支払った消費税200円の残額)となります。

 このように、事業者は、現行の消費税法上、消費税の納税額について、転売先から受領した消費税から仕入先に支払った消費税を控除した残額の消費税の納税義務を負っています。この仕組みを消費税の仕入税額控除といいます。この仕組みを用いた場合、DがCに支払った消費税の額(300円)とA、B、C各々が納税した消費税の額の合計額(100円+100円+100円)が一致します。

(2)事業者免税点制度について

 現行の消費税法上、消費税について、一定の場合に事業者の消費税の納税義務が免除されます。例えば、(前々年の)年間の課税売上高が1000万円以下の事業者や(前前年の売上がない)設立されたばかりの事業者(免税事業者)については、原則として、消費税の納税義務が免除されます。この仕組みを事業者免税点制度といいます。

(3)インボイス制度導入の背景

 現行の消費税法の問題点について、前記の例をベースに検討したいと思います。例えば、Bが免税事業者に該当する場合、Bの消費税の納税義務が免除されます。もっとも、前述の仕入税額控除は、Bが免税事業者であっても適用されます。そのため、DがCに支払った消費税の額(300円)とA、B、C各々が納税した消費税の額の合計額(100円+100円)が一致しない、という弊害が発生しています。

インボイス制度は、このような弊害を是正するために新たに導入されることになりました。

3 インボイス制度導入による影響

 インボイス制度が導入されることにより、事業者は、前記仕入税額控除を受けるにあたって、取引先にインボイスを発行してもらい、取引先からインボイスを受領の上、インボイス及び帳簿を保存しておかなければなりません(令和5年10月1日施行消費税法30条7項)。もっとも、免税事業者は、基本的にはインボイス発行事業者の登録をすることができません(同法57条の2第1項括弧書)。そのため、前記の例によると、Cは、免税事業者であるBからインボイスを受領することができず、仕入税額控除(300円-200円)を受けることができなくなってしまいます。これにより、(事業者の事務作業や負担が多くなるものの、)少なくとも消費税の納税額が減るという、現行の消費税法の弊害がなくなります。

 Cの対策としては、Bに対し、免税事業者からインボイス発行事業者となるよう促す、というものが考えられます。他方で、Bとしては、インボイス発行事業者とはならずに、引き続き、免税事業者として事業を継続することも可能です。もっとも、この場合、取引先との関係性が悪化するリスクが発生します。

そのため、Cには、仕入税額控除が受けられなくなるリスクが生じうるという弊害が発生し、Bには、取引先との関係性が悪化しうるという弊害が発生します。

3 おわりに

 本稿では、上記の説明の他、インボイス制度のより詳しい概要や事業者の対策、経過措置について説明が加えられています。この機会に是非ご一読ください。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

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