『ビジネス法務』2023年9月号の特集2は「企業が平時から取り組むべきテーマ別労働紛争『準備』のポイント」です。その中で、「懲戒処分手続」(執筆:西本良輔弁護士)があります。懲戒処分においては、手続的相当性も重要とし、その典型が「弁明の機会」であるという。この弁明の機会について解説されています。
- Ⅰ 概要
- Ⅱ 紛争類型・法律上の要件等
- Ⅲ 企業による準備のポイント
- 1弁明の機会は常に付与しておくべきである
- 2弁明の機会は実質的に付与しなければならない
- 3弁明の機会は懲戒処分に向けた手続である旨を明示したうえで付与することが望ましい
- 4弁明の機会は処分事由を明確にして付与すべきである
- 5無用な規定はせず、実施した手続は証拠化しておくべきである
- Ⅳ 結語
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 はじめに
本稿では、企業が日々抱える労務問題について、平時からの対応策として5つのテーマ別に解説がされています(執筆者:西本良輔弁護士)。今回は、そのうちの『懲戒処分手続』を取り上げます。
2 懲戒処分に関する規律
懲戒処分には、戒告から懲戒解雇まで種々の類型がありますが、そのいずれであっても、労働者にとっては、自身の収入や出世に直結する重大な不利益です。
そのため、労働契約法15条は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合…当該懲戒は、無効とする。」という規定を設け、不当な懲戒処分が下されないようにしています。
3 懲戒事由と手続適正
懲戒事由の根拠となった事実が存在しなかったり、懲戒処分の根拠となった事実に比して著しく不相当な重い処分が下されたような場合は、上記の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」として、懲戒処分が無効とされる可能性が高く、これらの点については、多くの企業が十分に留意されているところかと思われます。
他方で、懲戒処分には、手続的に適正に行われたことという「手続適正」も要求されています。対象者に弁明の機会の付与をせずに行った懲戒処分を無効とした裁判例も見受けられるところですので、この点についての配慮も必要となります。
4 対応策
①裁判例に照らすと、仮に、就業規則において手続適正に関する規程がなかったとしても、手続適正を担保せずに下された懲戒処分は無効とされるリスクがあるので、対象者への弁明の機会は、常に付与しておくべきです。
②また、弁明の機会は、形式的に付与するだけでは不十分であり、懲戒処分が無効とされるリスクがあります。
そのため、対象者が当該弁明の機会は懲戒処分に向けたものであることを認識できるように、懲戒事由を明確にして弁明の機会を付与する必要があります。
③その他、懲戒処分の有効性を巡って紛争となった場合に備え、実施した手続きを証拠として残しておくことが有効です。一例としては、弁明の機会を付与する旨の通知や、対象者からの弁明については、書面での形式とするなどです。
5 おわりに
今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。懲戒処分については、多くの皆様が慎重に対応されていらっしゃるとは存じますが、ぜひ本稿にお目通しいただき、明白な処分事由があるから大丈夫、本人も認めているから大丈夫といった理由で、懲戒処分を安易に進めていかないようにしていただけましたら幸いです。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)