第71回は、千代田石油商事事件(東京地裁令3.2.26判決)です。
本件は、主に休憩時間・仮眠時間の労働時間該当性、未払賃金の有無等が争われた事案です。Xさんは、Y社の業務に従事していた際の休憩時間・仮眠時間について、労働基準法32条の労働時間に該当し、時間外割増賃金の未払があるなどと主張して、Y社に対し、未払賃金等の請求をしました。
まず、定義・判断枠組みについて、労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。その上で、休憩時間や仮眠時間等の実作業に従事していない時間が労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより判断されます。この点、実作業に従事していない場合であっても、労働からの解放が保障されていない場合、使用者の指揮命令下に置かれていると評価され、労働時間に該当すると判断されます(例:仮眠時間においても、警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられているケース。最判平成14年2月28日民集56巻2号361頁)。
裁判所は、本件について、①Xさん及びXさんと同じ業務に従事している従業員について、休憩・仮眠時間中に何らかの対応を取ることを義務付けられていたことを裏付ける的確な証拠がないこと、②Xさんが休憩・仮眠時間中も上長として他の従業員を監視しなければならなかった等と主張しているものの、監視の継続を裏付ける証拠はない他、他の従業員の作業内容を補助し続けなければならなかったというような実情を裏付ける証拠もないこと、③Xさんの従事していた業務にかかるトラブルについて、大きなトラブルは1件のみであり、その他のトラブルについても、休憩・仮眠中の原告が稼働中の他の従業員の代わりに対応を余儀なくされたというような事実関係も認めがたいこと、④証拠上、各勤務日の休憩・仮眠時間中に特段の中断が見受けられず、まとまった休憩・仮眠時間を取ることができていたことが窺われること、⑤休憩室が提供されていた他、休憩・仮眠時間中の移動が禁止されていたような事実関係も窺われないこと等を踏まえると、労働からの解放が保障されていないとは評価できず、Y社の指揮命令下にあったと認めることはできない、と判断しました。
以上を踏まえ、裁判所は、Xさんの休憩・仮眠時間について、労働基準法32条の労働時間に該当せず、当該時間にかかる時間外割増賃金は認められないと判断しました(もっとも、解説は割愛しますが、一部の未払賃金の請求については認容。)。
休憩時間・仮眠時間や手待時間等の従業員が実際の業務を行っていない時間帯についても、指揮命令・稼働状況如何によっては、労働基準法32条にいう労働時間に該当すると法的に評価され、時間外割増賃金が発生してしまう可能性がある点に注意が必要です。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。