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【旬の判例】~第50回 「グッドパートナーズ事件」

第50回で紹介する判決は、東京高裁令和4年2月2日判決の【グッドパートナーズ事件】です。

1 事案の概要及び争点

Xさんは、派遣会社であるY社との間で、就労場所を介護付老人ホーム(以下「本件施設」)とし、雇用期間を平成31年2月3日から同年3月31日までとする有期労働契約(以下「本件契約」)を締結していました。

勤務を開始してから3週間ほど経過した平成31年2月25日にある事件が起きました。この日、Xさんは、本件施設の職員が、利用者の頭を叩いたり、エプロンを口に突っ込む等の虐待行為を行っているのを目撃しました。Xさんは、すぐさま、これら虐待が行われている旨を本件施設の副施設長に報告しました。合わせて、地域包括支援センターに対しても同内容の通報を行うとともに、Y社担当者にも報告しました。

しかしながら、介護施設では、入所者に打撲痕や傷などはなく、入所者からは、職員が大きな声を出してしまうことはあっても、暴言を吐かれたことはないなどといった話があり、Xさんより報告を受けた虐待行為はないものと判断しました(また、防犯カメラの映像でも、虐待行為があったことは確認できませんでした。)。

Y社は、これを受けて、Xさんに対し、Xさんとの有期労働契約の更新を取り消し、新たに仕事の紹介もしない旨連絡をしました。XさんはY社に不服を申し入れましたが、結局、Y社は平成31年3月31日をもって、契約期間満了により本件契約が終了したものと扱い、同年4月以降の本件契約の更新をしませんでした(以下「本件雇止め」)。

そこで、Xさんは、本件雇止めが無効であると争い、裁判所に訴えました。
本裁判では、争点として、本件雇止めの有効性が争われました。

2 裁判所の判断

裁判所は、労働者派遣契約の場合であっても、労働者に契約更新につき合理的な期待が認められ、客観的に合理的な理由を欠く場合には雇止めは無効となる(労働契約法第19条)として、以下の判断をしました。

まず、本件では、平成31年2月21日時点で、Y社担当者より、Xさんに対して、「ご契約更新の期間が確定しましたので、ご報告させていただきます。ご契約更新期間平成31年5月31日まで。」などとの通知がなされていました。裁判所はこの点を重視し、Xさんに対して本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであり、Xさんには契約更新の合理的な期待が認められるとしました。

また、本件雇止めの理由は、実質的には、Xさんが虐待について通報をしたことであると思慮されるものの、当該通報行為自体は正当な行為であって雇止めの理由とはならないと考えたのか、Y社は当該通報行為が理由ではない旨主張しました。その他の理由として、Y社はXさんが業務に無関係な自慢話をする、こだわりが強い、報告漏れがあったなどと主張しましたが、証拠上、Y社の主張するような事実はいずれも認められず、合理的な理由はないものと判断されました。

以上から、Xさんには契約更新の合理的期待があり、Y社には雇止めの合理的な理由はないとして、平成31年3月31日時点での雇止めは無効とされました。

一方で、裁判所は、平成31年5月31日時点に雇止めがあったものとしており、同日以降のXさんの更新の期待はないとしています。

これは、本件では、Xさんが労働契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情はなく、平成31年3月31日時点での雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされていなかったことから、平成31年5月31日以降については、Xさんが更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできないと判断されました。

結論として、裁判所は、平成31年5月31日までの未払い賃金の支払いを認めました。

3 本判決の意義

これまでの裁判例の傾向として、労働者派遣契約の場合、派遣労働者が代替的労働者としての性格を有し、常用代替を防止すべき立法要請があることから、派遣ではない通常の労働契約の場合と同様の雇用継続の合理的期待を認めることは一般的に困難である(マイスタッフ事件)などとされていました。これに対し、本判決は、派遣労働者に対しても有期労働契約の更新に対する合理的期待があると認めた上で、本件雇止めに客観的に合理的な理由が存在するか否かを判断している点に意義があるといえます。

4 おわりに

いかがでしたでしょうか。常用代替防止の要請のある労働者派遣契約であっても、雇止めが無条件に認められるわけではなく、雇止めが無効となる場合があるため注意が必要です。本件においては、更新確定の通知したことが重視されており、このことから、労働契約の更新の手続には慎重さが求められるといえるでしょう。雇止めの判断に迷った際は、ぜひ本判決を参考にしていただければ幸いです。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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