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【旬の判例】~第65回 「日本HP事件」

第65回は、日本HP事件(東京地裁 令5.6.9判決)です。

本件は、管理職から非管理職への降格に伴う賃金減額の有効性が争われた事案です。

会社が、労働者の職務レベルを降格し、これによって賃金を労働者にとって不利益に変更する場合、労働者との間の合意又は就業規則等の明確な根拠に基づいてなされる必要があります。また、就業規則等の明確な根拠に基づく場合であっても、当該処分に合理的な理由が無ければ、降格に伴う賃金の減額が無効であると判断されます。

本件では、Y社の就業規則上、職務等の変更に伴い降給がありうる旨の記載はあるものの、職務等の変更の具体的内容や給与レンジの額、職務の異動の基準については記載がありませんでした。また、XさんとY社との間には賃金の減額にかかる合意もありませんでした。

Y社は、社内ネットワーク上に掲載されている資料や社内で毎年開催されている人事制度説明会において労働者に周知されている資料(本件資料1ないし3)において、職務等の変更に伴う降給の具体的な細則が記載されており、本件資料1ないし本件資料3が就業規則の一部を構成している等と主張し、就業規則等の明確な根拠が存在すると主張しました。

裁判所は、上記Y社の主張について、Y社就業規則上、本件資料1及び2に上記基準を定める旨の規定が存在しないことや本件資料1及び2に職務の異動の基準等が記載されていないこと、本件資料3が人事制度をわかりやすく整理した資料に過ぎないこと、本件資料1ないし3が、Y社の就業規則として労働基準監督署に届け出られてもいないことをもって、Y社の就業規則の一部又は本件降格規程の細則であると認めることはできないと判断しました。その上で、裁判所は、XさんとY社間の合意がなく、就業規則等の明確な根拠もないことをもって、本件降格の合理的理由の有無を検討することなく、本件降格による賃金減額が無効であると判断しました。

なお、本件は賃金の減額について、労働者の同意がない事案です。この点、労働者の同意が存在する事案の場合であっても、当該同意が労働者の自由な意思に基づく同意であることが認められない場合、同意がないものと判断される点に注意が必要です。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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