『ビジネス法務』2020年12月号の実務解説は「スタートアップとの競業において大企業が意識すべきこと」です。経産省の「モデル契約書ver1.0」の全体像・重要条項の要点が解説されています。
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Ⅰ はじめに
Ⅱ モデル契約書の全体像等と価値軸
1モデル契約書の全体像
2モデル契約書の価値観
Ⅲ 技術検証(PoC)契約書
1「PoC貧乏」とは何か
2PoC貧乏の問題への対応策①
3PoC貧乏の問題への対応策②
Ⅳ 共同研究開発契約
1費用負担
2共同研究の成果たる発明等の知的財産権の帰属
3情報のコンタミネーション防止
Ⅴ 最後に
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
先般より、オープンイノベーションの推進が議論されており、その中で、大企業が知的財産権を吸い上げているのではないかという問題意識が共有されています。
その様な議論状況を踏まえ、経産省は、「モデル契約書ver1.0」を策定し、上記問題に対応できるよう規定を定めました。
モデル契約書は、大企業とスタートアップ企業が、秘密保持契約を締結後、技術検証を行い、共同研究開発を経て、他製品への活用に関する権利処理の各段階に対応するような作りになっています。
特に、本記事では、技術検証(PoC)に関し、スタートアップ企業が大企業から廉価で多くの検証を事実上強制される問題である「PoC問題」について、その対応策となる条項を紹介しています。
PoC問題への対応策としての条項は、時間に着目した条項及び金銭に対応した条項が挙げられ、特に、共同研究開発に進まなかったときの制裁として、金銭の支払いを大企業側に求めることができる条項は、金額にもよりますが、抑止力が高いものと考えられます。
また、技術検証の次の段階となる共同研究開発では、本記事でも指摘されておりますが、知的財産権を、大企業とスタートアップ企業のいずれが所有するかという問題は実務上も非常に悩ましい問題であります。
知的財産権等の権利の帰属は、モデル契約にも規定がありますが、実際は、費用負担をどちらが行っているか、どちらが労力を負担しているか等総合的なバランスの考慮が必要であると思われます。
もっとも、モデル契約では、知的財産権がどちらか一方の単独所有となった場合における手当となる条文も規定されており、ご参考になるかと思います。
共同開発の場面に限らず、知的財産権の問題は、企業間の取引で必ずといって良いほど関わりのあるものですので、ぜひ本記事をご確認頂ければ幸いです。
(弁護士 西尾 順一)