『ビジネス法務』2021年11月号の実務解説は「労働基準関係法令違反公表事例をもとに解説」です。その中に「企業名公表制度の概要とコンプライアンス体制の運用ポイント」と題した記事が掲載されています。労働基準関係法令違反が認められた場合、厚生労働省および各都道府県労働局のウェブサイトにおいて、企業名や違反法条項、事案の概要などが公表されます。本稿では、これら公表事例を通じて各企業がコンプライアンス体制の構築・運用に向けてどのように取り組むべきなのか、解説されています。
- Ⅰ 厚生労働省および各都道府県労働局による労働基準関係法令違反に係る公表
- 1企業名公表の制度とは
- (1)制度の概要
- (2)制度の目的と実態
- 2公表事例の内容および傾向
- (1)労働基準関係法令の違反事案と公表事案との関係
- (2)公表事案の分析および詳細
- Ⅱ 公表例からみる企業としてのコンプライアンス体制運用のポイント
- 1労働安全衛生法の遵守の重要性
- (1)公表事案からの考察
- (2)労働安全衛生法遵守の意識の強化
- 2コンプライアンス体制に関するPDCAサイクルの重要性
- (1)法令違反を認識したときの対応
- (2)よりよいコンプライアンス体制の構築・運用に向けて
- Ⅲ おわりに
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 本記事は、通達(平成29年1月20日付基発0120第1号(改正:平成31年4月1日基発0401第17号))に基づく企業名公表制度に関して、その概要と、公表された事例を通して企業が気を付けるべきポイントについて解説した記事となっております。
2 企業名公表制度とは、長時間労働の是正及び過重労働による健康障害防止対策を目的として、①労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案、及び②労働局局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案について、企業・事業場の名称、所在地、公表日、違反法条項、事案概要等をおおむね1年間、厚生労働省のウェブサイト等に掲載する制度です。
平成29年5月10日の公表開始からこれまで、延べ3000近い企業の①又は②事案が公表されています。
法令違反を犯した企業としてその名がいったん公表されると、企業としての評価が下がって消費者の信頼が減少し、採用活動に影響が出るなど、企業は大きな不利益を被ることになります。
したがって、公表事例を他山の石として、自社が公表されることのないよう、コンプライアンス体制を高めることが重要となります。
3 公表事例を分析すると、公表されているのはほぼすべてが①労働基準関係法令違反の疑いで送検された事案、です。
「労働基準関係法令」とは、明確な基準はありませんが、労働基準監督官が取り扱う労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法等のことを指します。
そして、違反法条の約8割は労働安全衛生法違反であり、残りは労働基準法違反で悪質性が認められるものとなっています。
4 これらの事例を踏まえると、まず、企業としては労働安全衛生法を遵守することが重要となります。
労働安全衛生法とは、機械等危険防止や墜落等危険防止を内容とし、生産・物流現場で問題となる法律であるため、そのような現場から離れた管理部門からはあまり重要性が理解されにくいという問題点があります。
したがって、現場だけではなく社内全体が一丸となって労働安全衛生法の内容を理解し、遵守されているかを点検できる仕組み作りが求められます。
5本記事では、上述した労働安全衛生法だけではなく、労働基準関係法令全般について、違反を認識したときの対応や、どのようなコンプライアンス体制をとるべきかが詳述されております。是非ご一読ください。
(弁護士 櫻井 彩理)
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)