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【旬の判例】~第54回 「Man to Man Animo事件」

第54回は、岐阜地判令和4年8月30日(労判1297号138頁)の【Man to Man Animo事件】です。

本件では、障害者雇用促進法が求める合理的配慮義務の懈怠の有無について判断されました。

1 事案の概要

Xさんは、交通事故による脳外傷が原因で、高次脳機能障害を有し、注意障害や遂行機能障害などの障害を有していました。

Yは、障害者の雇用促進を前提とした事業として、ウェブ制作事業などを主な目的とする株式会社であり、Xさんと期間の定めのある雇用契約を締結しました。

雇用契約の際、Xさんは、Yに対して、障害の状況を伝え、腰を痛めていることから運動靴しか履けず、スーツやブラウスが着られないため、服装の自由を認めてほしいこと等を申し入れ、Yはこれを了承しました。

ところが、Xさんは、YがXさんに対し、ブラウスやスーツを着用するように指示をした等の行為が障害者雇用促進法における合理的配慮義務に違反することを理由に、債務不履行に基づき500万円の損害賠償を求めました。

2 障害者雇用促進法における合理的配慮について

障害者雇用促進法に基づき、障害者に対する障害を理由とする差別の禁止として、事業主は、募集・採用時において障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません(同法34条)。

また、合理的配慮として、募集・採用時において、障害者からの申し出により障害者に対して合理的配慮を提供することが事業主に義務づけられており(同法36条の2)、採用後において、事業主が障害者である労働者に対して合理的配慮を提供する義務を負うことを定めています(同法36条の3)。

3 本件の争点

Yの指導等が障害者雇用促進法における合理的配慮義務違反に該当するのかが争点となりました。

4 裁判所の判断

①障害者雇用促進法における合理的配慮の範囲

腰を痛めていることにより履物に関して配慮を求めることがXさんの障害により直ちにもたらされるものではないことから、障害者雇用促進法における合理的配慮の対象になるとは直ちにいえないが、Xさんは入社当初から履物に関する配慮を申し出ており、Yもこれを認識してXさんを雇用したと認められるから、本件においては、履物に対する配慮は、障害者雇用促進法における合理的配慮に準じるものとして扱うのが相当である。

②障害者雇用促進法における合理的配慮義務違反の判断基準

Xさんの雇用主であるYが障害者であるXさんに対して自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことは、許容されるべきであり、支援、指導があった場合には、Xさんは、業務遂行能力の向上に努力すべき立場にあるというべきである。

したがって、Yが、Xさんの業務遂行能力の拡大に資すると考えて提案(支援、指導)が、配慮が求められている事項と抵触したとしても、形式的に配慮が求められる事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではなく、その提案の目的、提案の内容がXさんに与える影響などを総合考慮して配慮義務違反にあたるか判断するのが相当である。

③本件について合理的配慮義務違反が認められないこと

YがXさんに対し、ブラウス着用を勧めた行為については、ブラウスの着用しての仕事が広く社会で行われていることに照らせば、Xさんがブラウスを着用して就労することができるようになれば、Xさんの社会人としての業務遂行能力の向上(就労機会の向上)につながるものといえるから、合理的配慮義務違反にあたらない。

スーツ着用について、上記ブラウスと同様に社会人としての活動範囲を広げることになるので、スーツ購入を勧めた行為についても合理的配慮義務に反するとはいえない。

その他のYのXさんに対する指導等は、障害者雇用促進法における合理的配慮義務に反するものではない。

5 まとめ

本件では、障害者雇用促進法における合理的配慮の対象の範囲と義務違反の基準が問題になりましたが、障害と関係のない症状等を理由とする配慮に関して、労使間での十分な話し合いのうえ、必要な支援、指導が必要になります。

今回の事例を踏まえ、今後の障害者雇用について採用後の働き方について改めて考える契機となれれば幸いです。

弁護士 武藤 雅之(むとう まさゆき)

第二東京弁護士会所属。
2023年弁護士登録。2024年PLAZA総合法律事務所入所。神奈川県出身。

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