『ビジネス法務』2025年2月号の特集は「株主対応を見据えた議事録実務の総点検」です。この中に、「議事録閲覧謄写請求への対応」(執筆:井上聡弁護士/壱岐祐哉弁護士)があります。会社が議事録の閲覧謄写請求を受けた際に直面する悩みを解決することを目的に、解説があります。
- Ⅰ 取締役会議事録閲覧謄写請求が許可されるための要件
- 1閲覧等の対象となる取締役会議事録が特定されていること
- 2閲覧等の必要性があること
- 3著しい損害を生じるおそれがあるとはいえないこと
- Ⅱ 議事録閲覧等の許可申立事件の審理
- 1審理手続
- 2許可決定の効果
- 3審理手続における会社の対応
- Ⅲ 実務上の論点
- 1裁判所の許可を得ずに議事録閲覧等の請求がなされた場合の対応
- 2議事録を黒塗りにして開示することはできるか
- 3議事録の別紙資料や当日の配布資料を閲覧等させる必要はあるか
- 4備置期間経過後の議事録は閲覧等の対象となるか
- 5コピーに要する費用を徴取できるか
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
本記事では、株主から取締役会議事録の閲覧謄写請求がなされた際の要件や実務対応についての解説がなされています。
まず、取締役会議事録閲覧謄写請求が認められる要件は、①閲覧等の対象となる取締役会議事録が特定されていること、②申立人である株主の権利を行使するため必要があると認められること、③閲覧等により会社(親会社や子会社を含む)に「著しい損害を及ぼすおそれ」があるとは認められないことの3点です。②について、単に「株主代表訴訟を提起するため」「株主総会で質問するため」等の漠然とした理由だけでは不十分であり、株主が行使しようとする権利の種類及び知ろうとしている事実を具体的に特定して疎明する必要があります。③の「著しい損害を及ぼすおそれ」について、企業秘密が漏洩するといったものや個人のプライバシーが侵害されて会社の信用が毀損する等のような、会社に多大な損害が発生するケースが挙げられます。③について、申立人に閲覧等を認めることにより得られる申立人の利益と会社側が被る損害を比較考量して、より多大な損害が会社側に生じるか否かによって判断されます。
次に、議事録閲覧等の許可申立てについて、申立人である株主は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対して議事録閲覧等の許可申立てを行い、非公開の審理を経て閲覧等の許可決定又は不許可決定がなされます。審理の経過としては、上記①~③の有無の他、②、③との関係において、閲覧等の必要性がある部分を絞る等、閲覧等の対象範囲を限定すべきか否かといった点が主に争われます。議事録閲覧等の許可決定について、強制執行をすることは不可能ですが、許可決定があるにもかかわらず申立人への閲覧等を拒んだ場合、議事録の作成・閲覧の職務に関わる取締役に過料の制裁が課される点に注意が必要です。
実務上の論点について、まず、株主が裁判手続を経ることなく議事録の閲覧等を請求する場合があります。この場合、会社としては任意に請求に応じることも可能です。もっとも、議事録に機密情報が含まれている場合、機密情報の漏洩等の問題が発生する可能性があります。そのため、会社側の対応としては、裁判所の許可決定や裁判所の審理を経た上で閲覧等の請求に応じるという対応を原則とすべきです。次に、取締役会において配布された資料や議事録別紙について、閲覧等をさせる必要があるか否かという点について、基本的には議事録に該当しないため、閲覧等の請求の対象にはなりません。もっとも、議事録中の議事の経過の要領及びその結果として別紙資料を引用している場合のように、議事録別紙や配布資料が議事録の一部を構成しているといえる場合には、閲覧等の対象となる点に注意が必要です。
本記事では、上記の他にも、議事録等の閲覧謄写請求の対応方法や諸問題について詳しく解説されています。この機会に是非ご一読ください。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)