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【旬の判例】~第76回 「学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム事件」

第76回は、学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム(明治学園)事件【福岡地裁小倉支部令和5年9月19日判決 労働判例1313号54頁】です。
本件では、配転命令の有効性が争われました。

1 事案の概要

Xさんは、平成5年に、福岡県にある明治学園(本件学校)に常勤講師として採用されました。

学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム(以下「Y法人」といいます。)は、本件学校、桜の聖母学院などの学校を設置する学校法人でした。

Y法人は、平成29年にXさんを解雇しましたが、Xさんは解雇無効・地位確認訴訟を提起し、その勝訴判決が令和3年1月19日に確定しました。

しかし、その後もXさんは、就労を命じられることなく、Y法人の理事長から本件学校の敷地内への立ち入りの禁止が命じられました。

Y法人は令和3年10月16日付けでXさんに対し、福島県にある桜の聖母学院においてB学教員として勤務することを命じる配転命令をしました。

Y法人の就業規則には
「1項 業務の都合により配置転換、職種、職務の変更、長期の出張ならびに出向等を命じることがある。2項 異動を命じられた場合、学園の指定する日時に異動先に着任しなければならない」
との定めがありました。

→Xさんは、桜の聖母学院で勤務すべき義務のないことの確認等を求める訴訟を提起。

2 配転命令権の有効性をめぐる判断基準

配転命令権の有効性について、判例は、①業務上の必要性がないとき、②業務上の必要性があるとしても他の不当な動機・目的があるとき、もしくは③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情がある場合は、権利濫用として無効となるとしています(労働契約法3条5項、東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日裁判集民事148号281頁)。

さらに、同判決は、業務上の必要性について、当該勤務先への移動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性を肯定すべきとしています。

3 本判決の概要

本件では、

・20年以上本件学校でB学教員として勤務していたXに対する本件解雇を無効とする判決が確定して、本件学校に復帰すべき状況にもかかわらず、その後約9か月間にわたりXは本件学校に復帰させてもらえず、本件学校の敷地内への立ち入りすら禁じられた状態が継続していた

・これまではシスターを除く一般の教職員が本件学校から桜の聖母学院へと異動になった例はうかがわれないなかで、異動については何らの意向の聴取等も行われずに本件配転命令を受けるに至った

・本件配転命令の業務上の必要性はないとはいえない程度にとどまる

→本件配転命令が、業務上の必要性とは異なる不当な動機・目的をもってなされたことが強く疑われる上、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものといわざるを得ない。
したがって、本件配転命令は権利濫用として無効である。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
従業員に対する配転命令は、基本的には広範に有効性が認められているものではあります。もっとも、時には、配転命令には業務上の必要性がない、当該従業員に著しい不利益が生じるなどとして、当該従業員との間に紛争が生じることもあります。
顧問先の皆様におかれましては、お気軽にご相談をいただければと存じます。

弁護士 小川 頌平(おがわ しょうへい)

札幌弁護士会所属。
2025年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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