『ビジネス法務』2019年9月号の特集は、「会社・社員を守る“パワハラ”への法務対応」です。働く人の人権と意欲を保ち、人材流出を防ぐためにもパワーハラスメントをなくすことはもちろん必要ですが、現場からは「業務指導との線引きがわからない」、「管理職が萎縮してしまう」との戸惑いの声も聞かれます。本特集では、今般成立した法律と過去の裁判例を基に「パワハラとは何か」を明らかにし、「会社・社員」の双方を守る適切な法務対応のあり方を探っています。
内容は下記のとおりです。
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・該当性判断の基準と企業の防止業務〜
パワハラ法制の概要と施行までの準備対応・どのような言動がパワハラと判断されるか?〜
裁判例にみる業務指導との境界線・調査、事実認定の際に持つべき担当者の視点〜
申告から会社対応決定までの思考フロー・パワハラの程度に応じた裁判所の判断ポイント〜
適切な懲戒基準の策定・運用・争うべき事案・和解すべき事案の分かれ目は?〜
訴訟追行、和解における留意点・管理職に知ってほしい〜
パワハラにならない部下の叱り方・接し方10箇条
<太田・小幡綜合法律事務所の弁護士解説>
令和元年5月29日付で「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、パワーハラスメントに対する世間の関心は高まっています。
同法によると、パワーハラスメントが「優越的な関係に基づき、業務上必要な範囲を超えた言動により、就業環境を害すること」と定義されました。
パワーハラスメントに認定されると、不法行為(民法709条)を構成することになり、損害賠償請求権が発生する危険があります。
パワーハラスメントについての行為類型は、大まかに、①暴行・傷害、②脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言、③隔離・仲間外れ・無視、④仕事の妨害(過大な要求)、⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)、⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)の6類型に分類できます。
この中で特に「業務上の適切な指導」との線引きが難しいのは、④~⑥であり、本稿では、上記④~⑥についての裁判例が記載されておりますので、特に注力してご覧になって頂ければと思います。
また、本稿では、パワーハラスメントに当たるかの判断に関しても、いかなる要素を裁判所が検討しているのかが記載されており、特に言動内容や、言動態様、行為者と被行為者の関係性については、問題となりやすいので、併せてご確認ください。
パワーハラスメントについては、企業様が抱えやすい労働問題の典型例でありかつ世間的にも注目されている問題です。
この機会に是非ご参考にして頂ければ幸いです。
(弁護士 西尾 順一)