『ビジネス法務』2023年8月号の新連載は「コンテンツ産業におけるWeb3の活用可能性」(執筆: 稲垣弘則弁護士 田村海人弁護士)です。Web3の動きが世界中に広がり、日本においても法政策が進んでいます。コンテンツ産業におけるWeb3の活用可能性が期待されると同時に、課題も浮き彫りになっています。実務上の活用可能性と課題について概説があります。
- Ⅰ 本連載の狙い
- Ⅱ Web3を取り巻く法政策動向
- Ⅲ Web3を構成する主要な要素〜NFTとDAO
- Ⅳ Web3のコンテンツ産業における活用動向
- 1スポーツ
- 2ゲーム
- 3映画・アニメ・漫画
- Ⅴ 海外展開の手段としてのWeb3の活用可能性
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
近時Web3と呼ばれるブロックチェーン技術を活用した分散アプリケーション環境とそのもとで構築される新しいデジタル経済圏を構築する動きが世界中で広がっており、我が国においてもこれを企業活動に取り入れようとする動きがみられています。より簡易に表しますと、Web上で運営会社のような第三者機関を介してしか取引することができなかったシステムをWeb2とするのに対し、第三者機関を介さずにユーザー間で直接取引できる仕組みをとるWebシステムのことをWeb3といいます。
特に、アート、スポーツ、ゲーム、映画、放送、アニメ、漫画、音楽等のコンテンツ産業はわが国にとって大きな強みであり、Web3の活用可能性が高いと考えられています。
本稿では、Web3を構成する主要な要素であるNFTとDAOのコンテンツ産業における活用可能性について触れた上で、法的問題となることが予想されるそれらの実務上の課題についての説明もなされています。
1 NFT(Non-Fungible Token)
NFTとは、ブロックチェーン上で発行される代替性のないトークンを指します。NFTは、その特性から、デジタルデータに唯一無二の価値を与えることができるようになった点が特徴です。
特に、従来ゲーム内コイン等を支払手段として活用してきたオンラインゲームと親和性が高いことが指摘されており、実際に、ゲーム内のアイテム等にブロックチェーン技術を用いたブロックチェーンゲーム(BCG)のサービスが展開されています。
単にゲームをプレイして楽しむだけでなく、ゲーム内で獲得したアイテムが、現実世界の収益につながるような仕組みを構築することもできます。
もっとも、オンラインゲームは、ビジネスモデルによっては賭博該当性が問題となるもの(一定の対価を支払い低確率で希少なアイテムを獲得できる商品(いわゆるガチャシステム)など)もあり、国内展開においては様々な法的な課題が存在しているため注意が必要です。
2 DAO(Decentralized Autonomous Organization)
DAOは、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトを活用し、中央集権的な管理機構を持たず、参加者による自律的な運営を目指す組織形態として、これまで実現できなかった全く新しいガバナンスのあり方を提示するものとして期待が寄せられている組織です。
例えば、映画やアニメの制作を、当該コミュニティにおいて、共同制作することを目標とし、コミュニティ内の投票によって意思決定がなされ、コミュニティ参加者からの資金の調達、プロジェクトの貢献に応じた収益分配まで行われることが想定されています。
特に、国内外のファンから製作費を募る新たな資金調達方法としてDAOを活用することが効果的であると考えられています。
しかしながら、共同制作された映画やアニメの法的性質や権利帰属等の法的問題、ユーザーに設定される権益によっては金融商品取引法上の有価証券規制等の問題が生じることになるため注意が必要です。
以上のとおり、Web3を構成する主要な要素であるNFTとDAOについては、それらの活用可能性が期待されると同時に、様々な実務上の課題が浮き彫りになっています。
今後の企業活動においてNFTやDAOを導入することを検討するにあたっては、法的リスクがあることにも注意しなければなりません。 本稿は、これらNFTやDAOの活用方法及び法的リスクを把握する上で、参考に値するものとなっていますので、ぜひ一度ご覧いただけますと幸いです。
弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)
札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)