弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【ビジネス法務】ひな形の整備・運用

『ビジネス法務』2024年10月号の連載は「失敗事例から学ぶ『ナレッジ・マネジメント』」です。その中に「ひな形の整備・運用」(執筆:今野悠樹弁護士)があります。2つのケース・事例を通じて、契約書ひな形の整備と運用に関するナレッジ・マネジメントの失敗と解決策について解説されています。

  • Ⅰ はじめに
  • Ⅱ ひな形の「作成」における失敗と対策
  •  1直面している課題
  •  2失敗の理由〜「ナレッジをGiveする側の意識」の不足
  •  3対策
  • Ⅲ ひな形の「管理・運用」における失敗と対策
  •  1直面している課題
  •  2失敗の理由〜追加業務への拒否感
  •  3対策
  • Ⅳ ひな形におけるナレッジ共有の重要性

<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>

1 はじめに

企業が取引を行う際、毎回ゼロから契約書の作成をすることは稀であり、通常は、取引の種別に応じて、一定の内容の定型的な書式であるいわゆるひな形をあらかじめ作成しておくことが一般的です。ある調査では、8割以上の企業から「標準的な取引について、契約書のひな形を作成している。」との回答がなされており、企業法務において、今やひな形はなくてはならないものとなっています。

本稿では、会社の契約書のひな形整備・運用に関し、失敗例を下に、その解決策について取り上げられています。

2 失敗例1

(1)ある会社で契約書を作成する際、同社の法務部門において同じような案件の契約書作成・審査に2、3ヶ月もの期間を要しており、業務効率が悪い状態となっていました。2、3ヶ月もの期間を要する要因としては、契約交渉において、相手方から毎回同じような複数の修正を受けるため時間がかかっているということが発覚しました。異なる取引相手であるにもかかわらず毎回同じような修正を受けているのは、契約の相手方にとって修正せざるを得ないほどに同社にとって有利な条項となっていることが主たる原因でした。なぜ、同社は、このような自社にとって有利すぎるひな形を作成してしまったのでしょうか。

(2)同社では、契約書のひな形を作成する際に、ひな形整備担当者に共有されたのは最新の契約書のみでした。これだけでは、同社に経験として蓄積された契約交渉において修正を求められたポイントや、契約書に表れない交渉過程などについて十分に共有されない事態となってしまいます。

(3)契約交渉において修正を求められるポイントや、契約書に表れない交渉過程などについてひな形の整備担当者が全て自ら収集することは現実的ではありません。これらの十分な共有がなされるための解決策としては、契約交渉に当たる従業員にひな形整備に協力するインセンティブを付与することが考えられます。ひな形整備の貢献度に応じて評価を与え、表彰するような工夫を取り入れれば、契約交渉に携わる従業員の競争心を刺激するようになり、よりよいひな形の整備が実現することが期待されます。

3 失敗例2

(1)以前、同社の法務A課で作成した契約書と、今回同社の法務B課で作成した契約書の内容が異なっており、相手方からは不誠実な交渉態度だとお叱りを受けてしまいました。このような事態となってしまったのは、法務A課とB課で統一的なひな形管理がなされておらず、過去に統一的なひな形を作成したものの、各課で独自の変化を遂げていたことが原因でした。
同社において、なぜ、このようなひな形の各課独自の変化を遂げることになってしまったのでしょうか。

(2)法務A課とB課で異なるひな形を使用する事態を防ぐためには、ひな形条項をアップデートした場合に、バージョンを新しくした上で、指定のフォルダに格納し、前のバージョンのひな形を別のフォルダに保管することや、ひな形のどの条項を修正したのか修正理由と修正内容がわかるように新しいバージョンのひな形に紐づけるといった方法が考えられます。
とはいえ、このような作業は思いのほか時間のかかる作業であり、目の前にある案件に対して直接的な価値を生み出さない作業であることから、ひな形をアップデートした担当者がこのような追加業務に時間を費やすことに拒否感が生じてしまうものです。

(3)そこで、追加業務に対する拒否感を少しでも緩和するために、定例会議でひな形の管理・運営に関する時間を設けたり、簡易にアップデートした項目やその理由の記載・管理ができるよう共有用のテンプレートを整備するといったことが有用です。
また、ひな形の更新は一定の時期を定めて行うこととし、それ以外のタイミングでは更新を認めないといった運用をとることも考えられます。
このような取り組みにより、日々の細かな追加的な付随業務としての共有作業ではなく、大々的なひな形の更新という法務部門としての本来的な業務といった位置付けとなることが期待されます。

4 おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は契約書のひな形の整備・運用に関する失敗例をもとに、その解決策として、本来あるべきひな形の整備・運用方法について紹介させていただきました。

契約書のひな形を作成する場合には、単に自社に有利な条項とすればよいのではなく、取引相手からの度重なる修正がなされないよう、修正されるべき事項やその交渉過程について社内で共有し、よりよいひな形を作成することが、業務効率をあげ、契約交渉も円滑に進めるためにも重要といえます。

また、社内において異なるひな形が散見される事態とならないように、ひな形の統一的な管理体制を敷いて、異なるチームにおいてもひな形が確定的・統一的にアップデートされるようにすることが、取引相手の信頼を損なわないためにも重要といえます。 皆様のひな形の整備・運用に際し、本稿が少しでも参考になりましたら幸いです。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

最近のコラム