第59回は、近畿車輛事件(大阪地裁 令3.1.29判決)です。
本件は、従業員の複数の不適切行動を理由とした懲戒解雇の有効性が問題となった事案です(結論として懲戒解雇有効)。
まず、裁判所が認定した懲戒事由について、①XさんがY社において、社員間でスケジュール等を共有しているグループウェア上の自信のスケジュール欄に「会社に来たくないから休み」「出勤 仕事が嫌いでさっさと帰る」等の書き込みを行ったこと、②Y社がXさんに対し、①の行動を改めるよう注意したものの、Xさんが反発し、上司の命令に従わない旨のメールを上司及び総務・人事部に発信したこと、③Y社がXさんに対し、今後上司の指示・命令に従わない行為を確認した場合には就業規則に照らし懲戒解雇とする旨の警告書を発するとともに、反省文の提出を求めたところ、Xさんが「反省する事はまったくございません。建前上の反省文を提出致します」「今後、反省文の提出を求められた場合は反省文提出の強要と受け止めさせて頂きます」などと記載した反省文を提出したこと、④Xさんが部内連絡会のスピーチにおいて、「勤務しているのは会社を辞めるまでの時間つぶし」との趣旨の発言をしたこと、⑤Xさんがパンダの被り物をかぶって部内連絡会に出席したり、勤務時間中に社内をうろついていたこと、⑥Y社がXさんに対し、⑤の行為につき注意指導文書を提示して注意をするも、Xさんが再度同様の行為をするとともに、個人としての尊重を侵害され、差別を受けたなどと抗議したこと、⑦Xさんが仮入館証の所属欄に「アホぶちょーがいるけんかい(原文ママ)」「ぶちょうつかえないけんかい(原文ママ)」と記載して提出したこと、⑧Xさんが人事考課のフィードバック面談において、最低評価のD評価を受けたことに不満を述べるとともに、今年の目標は全てD評価になることであると述べたこと、等です。
Y社は、これまで①~③につきけん責の懲戒処分を行うとともに、多数回にわたってXさんを注意指導し続けてきました。それでもXさんは上記の問題行動をやめることがなく、Y社は、就業規則上の「勤務成績又は業務能率が著しく不良で技能発達の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき。」という懲戒事由に該当するとして、Xさんを懲戒解雇(以下「本件解雇」といいます。)しました。これに対し、Xさんは、本件解雇の無効を争いました。
懲戒解雇について、①客観的に合理的な理由の有無及び②社会通念上の相当性の有無に照らし、懲戒解雇の有効性が判断されます。裁判所は、本件解雇の有効性について、次の様に判断しました。
まず、上記一連の事実関係に照らせば、客観的に見ても、Xさんによって本来の担当業務が正常に遂行・継続されることは、もはや期待し難い状態となっていたというべきである。次に、段階的に懲戒処分(減給・降格等)を行っていない点について、一連のXさんの問題行動によりY社の業務に相応の支障を生じさせたことが容易に推認されるほか、けん責の懲戒処分を受けていながらも目立った反省や改善が見受けられず、かえってY社に対する反発や勤務意欲の低下を示す行動を繰り返していたものであり、更なる段階的な懲戒処分によってXさんの勤務成績等が改善した可能性が明らかであったとも認めがたく、反省の機会も不十分ではなかったとして、本件では問題視しませんでした。その上で、Xさんの懲戒処分歴やその後のY社の注意・指導に対するXさんの反省・改善の欠如、一連のXさんの言動から伺われるY社への反発や勤務意欲の低下・喪失及びその顕在化の程度及び態様等を併せ鑑みれば、Xさんにおいて、「勤務成績又は業務能率が著しく不良で技能発達の見込みがなく、他の職務にも転換できない等、就業に適さないと認められたとき。」に当てはまることから、本件解雇につき、客観的に合理的な理由があり、かつ、社会通念上も相当なものであると認定し、懲戒解雇有効と判断しました。
懲戒解雇をするにあたって、通常であれば、段階的に懲戒処分を重くし、従業員の勤務状況に改善がない場合に懲戒解雇をするのが一般的ですが、本件ではそのような段階的な処分をすることなく、従業員を懲戒解雇しています。従業員の勤務状況があまりにも不良である場合、段階的な懲戒処分を経なくとも懲戒解雇が有効となりうるという点で本判決は参考となると存じます。
弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。