第24回は「国立大学法人東北大学(雇止め)事件」です。
有期労働契約の更新の拒絶(雇止め)の適法性が問題となった事案です。
まず、前提として、平成25年4月から導入された有期労働契約の無期労働契約への転換ルール(無期転換ルール)について解説します(平成24年改正労働契約法18条)。無期転換ルールとは、平成25年4月1日以降に締結された有期労働契約について、契約期間が何度も更新されて契約期間が通算して5年以上経過した場合、労働者が勤務先に対して契約期間中に無期労働契約の締結の申し込みをすれば、契約形態が有期労働契約から無期労働契約に転換されるという制度です(但し、契約期間の算定にあたって、一定の例外があります。労契法18条2項。)。
また、雇止めの適法性について、労働契約法19条より、【A】①a契約期間が何度も更新されたことがある有期労働契約について、契約を更新しないことが無期労働契約の解雇と社会通念上同視することができる場合であって、②労働者が契約期間中又は契約終了後すぐに有期労働契約の申し込みをした場合、③当該申し込みの拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないのであれば、有期労働契約が事実上更新されたものとみなされます(労働契約法19条1号)。また、【B】①b労働者が有期労働契約の契約期間の満了時、当該契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合であって、②、③に該当する場合も、有期労働契約が事実上更新されたものとみなされます(労働契約法19条2号)。
次に、事案の概要について説明します。Xさんは、平成18年4月1日から平成22年4月1日までの間、及び、平成23年4月1日から平成30年3月31日までの間、Y法人と有期労働契約を締結していました。ところが、Xさんは、平成30年2月頃、Y法人に対し、有期労働契約の更新の申し込みをしたところ、Y法人は、同年3月31日、Xさんとの有期労働契約の更新を承諾せず、同日をもってXさんを雇止めしました(以下、「本件雇止め」といいます)。
なお、前述のとおり、無期転換ルールの期間の算定の始期が平成25年4月1日となることから、平成30年3月31日時点において5年の期間が経過していません。そのため、本件において、無期転換ルールは平成30年4月1日以降から適用されることになります。
そこで、Xさんは、本件雇止めが適法性を欠き、労働契約法19条1号又は2号によって平成30年4月1日以降も有期労働契約が更新されており、労働契約法18条の無期転換ルールにより無期労働契約が成立したとみなされるなどと主張し、Y法人に対し、未払賃金等の請求をしました。
裁判所は、【A】労働契約法19条1号該当性(雇止めについて、無期労働契約の解雇と社会通念上同視することができるか否か)について、有期労働契約が契約期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在していたといえる場合には、無期労働契約の解雇と社会通念上同視することができるという判断枠組を示しました(例:契約期間の満了ごとに厳密な更新手続が取られておらず、有期労働契約が多数回更新されているようなケース)。
その上で、裁判所は、本件について、Y法人が、従前、契約期間の満了前にXさんに契約更新の希望を確認したり、配属先の承認を得たり、契約期間等の諸条件が記載された労働条件通知書兼同意書の交付等をした上でXさんとの労働契約を更新しており、契約の更新にあたって相応に厳格な手続が取られていたことを踏まえ、労働契約法19条1号には該当しないと判断しました。
次に、裁判所は、【B】労働契約法19条2号該当性(契約更新を期待する合理的理由があるかどうか)について、a雇用の臨時性・常用性、b更新の回数・雇用の通算期間、c契約期間管理の状況、d雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無等の客観的事実を総合的に考慮して判断されるべきものであるという判断枠組を示しました。
その上で、裁判所は、a(雇用の臨時性・常用性)について、Xさんが従事していた業務がY法人の主要業務ではなかったこと、各有期労働契約期間において、Xさんが異なる業務に従事していたことを踏まえ、雇用の常用性を否定しました。
また、b(更新の回数・雇用の通算期間)について、Xさんとの契約が複数回更新されており、雇用の通算期間が相当程度ある。しかし、平成26年4月1日に改訂されたY法人就業規則上、平成25年4月1日時点でY法人の有期労働者であった者の通算契約期間が原則として5年以内(平成30年3月31日まで)とされていたこと(以下、「本件上限条項」といいます。)を踏まえれば、契約更新を期待する合理的理由を基礎付けるような事情ではない、と判断しました。
そして、c(契約期間管理の状況)について、本件雇止めが本件上限条項に基づいてされたものであること、Y法人が、平成26年以降、Xさんに対し、更新の上限が記載された労働条件通知書(兼同意書)に署名押印を求めていたことを踏まえ、Xさんの契約期間の管理が厳格に行われていたと判断しました。その上で、裁判所は、cについて、契約更新を期待する合理的理由を否定する判断材料としました。
最後に、d(使用者の言動)について、Y法人は、平成26年3月の時点から、Xさんに5年を超える有期労働契約の更新を行わない旨の文書を送付していたこと、更新条件が記載された各年度の労働条件通知書(兼同意書)にXさんが署名押印していること、Y法人が平成29年度の有期労働契約の締結の際に、Xさんに対し、更新の上限が平成30年3月31日であることを明確に説明していたこと等を踏まえ、本件上限条項の上限を超える雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の存在を認定することができない旨判断しました。
裁判所は、以上を踏まえ、本件雇止めの時点において、契約更新を期待する合理的理由があったとはいえないとして、労働契約法19条2号には該当しないと判断しました。裁判所は、Xさんの請求を棄却しました。
有期労働契約者を雇用するにあたって、このような雇止めの適法性の問題や無期転換ルールについて、慎重に対応する必要があります。
弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。