第31回目は、「サハラシステムズ事件」です。
本件では、派遣会社が、派遣労働者と派遣先会社との直接雇用契約を禁止していたことが、派遣法33条に反して無効とならないかが争われました。
1、事案の概要
ソフトウェアの開発及び設計等を業務とする派遣会社(以下「派遣元会社」といいます。)Xが、Xと派遣先会社Yとの間で締結 された派遣労働者の直接雇用禁止の取決めに反してYがXの元派遣労働者Aらを直接雇用したことは、債務不履行に当たるとして、本来得られたはずの派遣費用に係る逸失利益の賠償を求めたもの。
2、派遣元会社の雇用制限禁止義務
労働者派遣法33条2項は、「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」と定めています。
この規定は、派遣労働者の職業選択の自由(憲法22条)に配慮したもので、派遣元会社が派遣先会社と派遣労働者との間の直接雇用契約を禁止することは、原則として認められていません。
なお、この雇用制限禁止義務は、派遣元会社と派遣労働者との雇用契約が終了した後の雇用制限を禁止するものであって、派遣元会社と派遣労働者との間の雇用契約期間中において、派遣先会社と派遣労働者との直接雇用契約を禁止することは、許容されると解されています。
3、派遣元会社Xの主張
①本件では、XとAらの間で締結された「雇用契約の終了後6カ月」という短期間の直接雇用を制限しているに過ぎない。
②本件では、AらのYにおける就業のみを禁止しているにすぎず、Aらの職業選択の自由に対する制限は限定的である。
③したがって、本件は、労働者派遣法33条2項の「正当な理由」が認められる事案である。
4、裁判所の判断
裁判所は、概要、以下のように判示して、派遣元会社Xによる直接雇用の制限を無効としました。
①労働者派遣法の趣旨
労働者派遣法33条は、派遣労働者の職業選択の自由に配慮して、派遣元会社による雇用制限を原則として無効としている。
一方で、派遣元会社による一切の雇用制限が禁止されてしまうと、派遣元会社のノウハウ等が流失して、派遣元会社の事業の存 続が危ぶまれる事態が生じかねないことから、「正当な理由」がある場合に限って、例外的に派遣元会社による雇用制限が許容されているものと解すべきである。
②Aらの不利益(期間制限)
6か月の期間にわたる雇用制限は、必ずしも短期間の制限ということはできない。
③Aらの不利益(就業先制限)
こと派遣契約については、派遣先会社そのものが派遣労働者にとっての最大の就業先候補となり得るのであって、Aらの就業先の制限が派遣先会社Yの1社のみであることをもって、Aらの職業選択の自由に対する制限が限定的であるとは言えない。
④Xにとっての雇用制限の必要性
本件で、XがAらを雇用していた期間中にXがAらに提供したノウハウ等は、ソフトウェアの保守点検に関する一般的な技術にとどまるものであり、Xで就業しなければ習得が困難な技術であるとは言えない。
⑤結論
したがって、本件では、XがYとAらとの雇用契約を制限することについての「正当な理由」は認められない。
5、おわりに
今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
契約書を自社に有利になるように作成する意識は重要ですが、本件に限らず、契約書の取り決めが、法令によって一部無効とされるケースは多々あります。
弊所との顧問契約を締結して下さっている皆様におかれましては、契約締結の際は、弊所まで契約書レビューのご依頼をいただけましたら幸甚です。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。