第33回は「巴機械サービス事件」です。
本件では、一般職と総合職のコース別人事制度を採用している会社において、総合職の全員が男性である一方で、一般職として採用された全員が女性となっている状況であることから、男女差別があるかといった点が問題となりました。
結論としては、第一審の横浜地方裁判所及び控訴審の東京高等裁判所は、いずれも同じ判断を下しており、採用段階での男女差別はなかったものの、職種転換制度の運用には男女差別があったと結論付けました。
裁判所がこのような結論に至った理由について以下説明致します。
1 事案の概要
事案の概要としては、女性従業員であるXさんは、Y会社が採用段階において、Xさんが女性であることのみを理由に一般職に振り分け、採用後も総合職への転換を事実上不可能にしていることが、いずれも「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(雇用機会均等法)に違反すると主張して、①Xさんが総合職の地位にあることの確認、②Xさんが総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額の支払、③Xさんが違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったことによる慰謝料の支払を求め、Y会社を訴えました。
Y会社の人員構成は、男性が全員総合職であるのに対し、女性が全員一般職であり、採用実態としては、総合職56名の全員が男性であり、一般職として採用された全員が女性でした。Y会社には、一般職から総合職への職種転換制度が設けられていましたが、職務転換をした実績はなく、職種転換の具体的な基準は整備されていない状況でした。
2 採用段階についての男女差別
Y会社の給与規定では、一般職とは定型的・補助的な業務を遂行する従業員の職種であるのに対し、総合職とは基幹的業務を行う職種であり、非定型的業務や、定型的・補助的な業務を行う者への指示業務を行う職種であると定められていました。総合職と一般職との振り分けないし採用基準としては、総合職は現業に関する経歴の有無等を重視して採用するとの基準を設けていました。また、Y会社は、Xさんの採用面接時、一般職の労働条件や業務内容や、Y会社には一般職と総合職の区分があること、Xさんが一般職として採用されることをXさんに説明しており、Xさんはそのことを認識し、了解していました。
一方で、Xさんが主張するような男性は総合職に、女性は一般職にという性別に基づいた基準がとられていたことを認めるに足りる的確な証拠は裁判上確認することができませんでした。
以上のことから、裁判所は、採用段階における、総合職と一般職のコース別人事制度の運用において違法な男女差別があったか否かについては、Y会社の現業に関する経歴の有無等を重視して総合職を採用しているとの基準を踏まえ、現に現業の経験を有する女性自体が少なったため、これまでに総合職の募集に対して女性が応募ないし紹介されたことがなかったのであって、結果的に総合職の全員が男性という人員構成になっているからといって、振り分けないし採用基準として、男性は総合職に、女性は一般職にという基準がとられていたとは認められないと判断しました。
したがって、採用段階においてXさんを一般職として採用したこと自体には、男女差別があったとは認められず、Xさんは問題なく一般職として採用されていることが認められました。
3 職務転換の運用における男女差別
Y会社の本件コース別人事制度においては、職種転換制度が規定されており、一般職から総合職への転換が制度上可能とされていました。しかし、Y会社ではこれまで、職種の転換がなされた実績は存在せず、職種転換に必要となる具体的な基準や手続等も整備されていませんでした。
これらの事実から、裁判所は、職種転換を求めているXさんに対し、職種転換に必要となる具体的な基準や手続等を示したりすることがなかったことからすれば、Y会社は一般職から総合職への転換の機会をXさんに与えてこなかったと判断しました。それゆえ、Y会社の運用は、コース別人事制度の現状(例外なく総合職は男性、一般職は女性)に照らし、職種が性別によって例外なく分かれている現状を追認、固定化するものであり、職種転換における性別を理由とする差別と事実上推定されるというべきであると判断し、本件において、この推定を覆す事情は認められないと判断しました。
もっとも、仮にY会社において、職種転換の具体的な基準が定められていたとしても、Xさんを総合職に転換させるか否かは、Y会社の人事権(裁量的判断)に属する事柄であり、Y会社のその時々の人員体制、財務状況等にも大きく影響されるものであって、その他本件における一切の事情も踏まえれば、本件において、ある特定の時点でXさんが総合職に転換していたことを認定できるとまではいえないと判断しました。
4 結論
以上より、裁判所は、Xさんを一般職として採用したこと自体には問題はなく、職種転換の機会が与えられなかったとしても、Xさんがある特定の時点で総合職に転換していたとまでは認定することができないとして、①Xさんが総合職の地位にあることの確認、②Xさんが総合職であれば支払われたはずの賃金と実際に支払われた賃金との差額の支払の請求は棄却すると結論付けました。
一方で、Y会社においては、一般職から総合職への職種転換制度が整備されておらず、Xさんらの問題提起にもかかわらず、男性が総合職、女性が一般職という現状を容認し、固定化してきた点で、職種の変更について性別を理由とした差別的取扱いを禁ずる雇用機会均等法6条3項に違反し、又は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることを目的とした同法1条の趣旨に鑑み、違法な男女差別に当たると判断し、③Xさんは違法な男女差別により経済的、身分的な不利益を受け、精神的苦痛を被ったことによる100万円の慰謝料の支払請求を認容しました。
いかがでしたでしょうか。本判例は、現業に関する経歴の有無等を重視するといった総合職の採用基準を設けていたこと(加えて、現に振り分けられた者の経歴等は当該採用基準に整合していたこと)により男女差別はないと判断され、一方で、職種転換に必要となる具体的な基準や手続等も整備していなかったことで男女差別があると判断されました。
本判例から、採用基準や、職種転換の基準を具体的に定めておくことがいかに重要であるかがわかります。採用基準・職種転換基準を見直す際には、ぜひ本判例を参考にしてみてはいかがでしょうか。
弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)
札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。