『ビジネス法務』2023年5月号の実務解説は「インボイス制度に対する企業法務対応(下)」(執筆:緒方文彦弁護士)です。公正取引委員会から「免税事業者お呼びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が公表されています。この中からポイント解説がなされています。
- Ⅳ 「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」の概説
- Ⅴ インボイス制度に関するFAQ
- Ⅵ 公取Q&Aのうち、取引対価の引下げについての解説
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1.はじめに
本稿では、先月号の続編として、令和5年10月1日から実施される『インボイス制度』に対する企業法務対応が取り上げられています。先月号では、インボイス制度の概要が解説されていましたが、今月号では、企業が取り得る具体的対応策について、公正取引委員会から公表されている「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を参考にしながら、QA形式で解説がされています。
2.適格請求書発行事業者としての登録を促すことの可否
(1)まず1点目は、仕入先の免税事業者に対して、適格請求書発行事業者としての登録を促すことは適法なのかという点です。
(2)結論としては、適法であり、このような要請を行うこと自体は、独禁法上問題となるものではありません。
もっとも、課税売上高が継続して1,000万円以下であることが見込まれる事業者にとっては、やはり消費税の負担は大きく、登録に応じない事業者が一定程度は出てくるものと思われます。
3.消費税分を減額した取引価格にすることの可否
(1)仕入先に適格請求書発行事業者としての登録に応じてもらえなかった場合、次の対応先としては、自社の仕入れ税額控除が制限される分について、仕入先に対し、消費税を減額した取引価格とするように求めることが考えられます。
(2)企業がどのような条件で取引をするかについては、基本的には、当事者間の自主的な判断に委ねられています。しかし、免税事業者等の小規模事業者の場合は、売先の事業者との間に取引交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすいという問題があるので、免税事業者等の小規模事業者に対して取引価格の減額を求める際には、独禁法上のリスク(優越的地位の濫用など)を視野に入れる必要があります。
独禁法上のリスクを避けるためには、①仕入先の免税事業者と、一方的・形式的ではない協議を行ったうえで、②消費税の減額は、仕入れ税額控除が制限される分に限定し、③仕入先が仕入れや諸経費の支払いの際に負担している消費税の額を超えない範囲内での減額にとどめることが一案として考えられます。
4.取引停止の可否
上記のような妥当性のある取引価格減額交渉を行ったが、それでも合意に至らなかった場合には、取引停止措置も許容され得ると考えられます。
もっとも、不当に過大な取引価格の減額を一方的に提示しただけで(合意に至らなかったとして)取引停止措置を採ることは、独禁法違反になり得ることには留意して下さい。
5.新規仕入先との契約条件
上記1~4は、インボイス制度導入前の仕入先との間で、従前の取引条件を仕入先に不利になるように変更することを前提とした議論です。
インボイス制度実施後、新たな仕入先と新規の契約を締結する際に、仕入先に対して消費税分を減額するように求めることには、特段の制約はありません。
6.おわりに
今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
適格請求書発行事業者としての登録それ自体はそれほど難しいものではないように思いますが、上で記載した取引先との対応については、場合によっては、独禁法なども絡んでくる難しい問題を生じさせます。ぜひ、本稿や、公正取引委員会のQ&Aを拝読いただき、リスクを避けた対応をしていただければ幸いです。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)