『ビジネス法務』2022年12月号の特集2は「強行法規と任意法規でみる契約書修正チェックの仕方」です。その中の一つに「法律条文にみる『強行法規』の特徴と見極めの手がかり」というパートが掲載されています。契約書を作成するにあたり、特に注意すべき「強行法規」について解説があります。
- Ⅰ はじめに
- Ⅱ 民法
- 1総論
- 2各論
- Ⅲ 民法以外の法律
- 1会社法
- 2借地借家法
- 3労働基準法
- Ⅳ さいごに
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
契約書のリーガルチェックを行う目的は、のちの紛争を防止することです。ただし、契約書の条項が、法律の条項に抵触したとしても、常に違法無効となるわけではありません。
契約書の条項が違法無効となる場合の1つとして、抵触する法律の条項が「強行法規」の場合が考えられます。
本記事では、「強行法規」と「任意法規」の定義や違い、分水嶺につき解説がなされております。
契約書を作成する際や、既存の契約書を見直す機会として、本記事は必見です。
本記事によれば、強行法規とは、公の秩序に関する規定であり、個人・当事者の意思によって排除・変更を許さない、私法的自治の限界を画する規定であるとし、強行法規に該当しないものは、任意法規に該当するとされています。
強行法規に反する契約書条項は、違法無効となる場合があります。
民法206条や177条、178条は、民法上の物権に関する規定であり、物権の創出・対抗要件の具備等についての社会混乱を来たすことを防止したり、物権に対する第三者の信頼を確保する観点から、強行法規と解されます。
民法上の債権法は、私的自治や契約事由の観点から、任意法規になりやすいとされています。
例えば、契約目的物の種類や品質、数量が契約に適合しない等の契約不適合責任(民法562条1項、572条)は、任意法規と解されています。
他方で、債権譲渡禁止特約が外部から容易に判断しえない等、第三者保護の観点から、債権の譲渡性を定めた466条1項が強行法規と解されます。
同様に第三者保護の観点から、債権譲渡の対抗要件も強行法規と解されます。
強行法規と任意法規の分水嶺として、弱者保護という観点で区別されるものがあります。
例えば、債務を負っている弱者等の時効の利益を有する者を保護する観点から、事前の時効放棄を禁止した民法146条は強行法規です。
個人根保証契約の保証人の責任についても社会問題化するほどでしたから、同人たる弱者を保護する観点から、民法465条の2も強行法規です。
民法以外の法律のうち借地借家法や労働基準法は、賃借人や労働者という社会的弱者を保護する観点から、強者である賃貸人や使用者が法律に抵触する場合を違法無効としますから、いわゆる片面的強行規定と呼ばれています。
会社法については、法令等で定款自治が認められている部分に限り、定款により別途規定を定めることはでき、定款自治がない、あるいは、定款の定めがない限りは、強行法規となります。
このように、法律は条項の性質(物権か債権か)、取引上保護すべき第三者や社会的弱者の存在等を強行法規の分水嶺をとし、当事者間の実質的公平を図っています。
とはいえ、上でお示しいたしました例とはケースが異なる場合もございます。
取引内容や事実関係をみてご疑問に思われた際は、お気軽にご相談ください。
(弁護士 西口 阿里沙)
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)