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【旬の判例】~第4回 「安藤運輸事件」

第4回目は「安藤運輸事件」です。
配転命令の有効性が争われた事案です。

Xさんは、長年、複数の会社において、運行管理者業務や配車業務を行っていました。Y社は、そのようなXさんの経験を見込んで、XさんをY社の運行管理業務や配車業務を担当すべき者として中途採用しました。しかし、Y社は、その後、Xさんに対し、倉庫業務に従事するよう配転命令(以下、「本件配転命令」といいます。)を出しました。

これに対し、Xさんは、Y社に対し、本件配転命令が、①XとY社との間には、職種を運行管理業務に限定する旨の職種限定の合意が存在し、当該職種限定の合意に違反している旨主張するとともに、②本件配転命令が権利の濫用に当たり無効である旨主張し、倉庫業務に従事する雇用契約上の法的義務が無いことの確認訴訟を提起しました。

裁判所は、
①→雇用契約書、就業規則等の記載内容に照らし、Xさんの主張するような職種限定の合意の存在は認められない。もっとも、採用の経緯や採用面接時のやりとりを踏まえると、運行管理者の資格を活かして運行管理業務や配車業務に従事していくことができるというXさんの期待は、合理的なものであって、単なるXさんの一方的な期待等に留まるものではなく、Y社との関係において法的保護に値する、と判断しました(②の権利濫用の成否の考慮事項とされました)。

②→主に、a配転命令の業務上の必要性b配転命令が不当な動機・目的をもってなされたかどうかc労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるかどうかという観点から事実関係を分析の上、

a Xさんを倉庫業務に配点しなければならない必要性があったとしても高いものではなく、かつ、運行管理業務及び配車業務から排除するまでの必要性はない。

b他方で、配転命令につき、Y社に不当な動機・目的があったことまでは認定できない。

c業務上の必要性が高いものではなく、かつ、運行管理業務や配車業務から排除するまでの必要性がない状況下で、前記合理的期待に大きく反し、Xさんの能力・経験を活かすことのできない倉庫業務に漫然と配転させており、Xさんに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせた。
→本件配転命令は、権利の濫用に当たり無効である、と判断しました。

配転命令は、①労働契約上、配転命令が許容されていなければ行うことができず、また、②配転命令が権利の濫用に当たる場合には無効となります。そして、②の権利濫用該当性について、a配転命令の業務上の必要性、b不当な動機・目的の有無、c労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるかどうか、といった要素が考慮される傾向にあります(東亜ペイント事件。最判昭61.7.14 労判477号6頁)。

本判決も、上記の判断枠組を踏襲して配転命令の有効性が判断されています。もっとも、本判決では、①の職種限定の合意自体については否定しつつも、当該職種に従事することに対する労働者の期待について、合理的なものとして法的保護に値するものと位置付け、②の権利濫用の成否の判断枠組の中で考慮されている、という特色があります。今後も同じような判断手法をとる裁判例が出てくる可能性があります。

また、本件は、配転命令の有効性のみが争われた事案ですが、配転命令の無効を主張の上、使用者に対し、不法行為損害賠償請求訴訟等を提起される可能性があります(医療法人社団弘恵会事件。札幌地判令3.7.16 労判1250号40頁)。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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