第5回目は「ブレイントレジャー事件」です。
この事件は、ホテルフロントマン(業務委託)の労働者性が問題となりました。
Xさんは、Y社の経営するホテルで労働契約に基づきフロント業務等に従事していました。
ところが、Y社が社会保健の加入を行うこととなり、Xさんは社会保険料の源泉徴収で手取り給与額が減少することを恐れ、Y社とは業務委託契約を締結しました。
Y社からは、Xさんが労働者でなくなった場合、割増賃金の支払いを求めることはできないという説明はありませんでした。
業務委託契約締結後も、Xさんの業務内容に変化はなく、同じ業務に引き続き従事しました。
Xさんに支払われた業務委託料は、「フロント業務委託費」の名目で20万5000円〜22万円、「諸費用」の名目で5000円、さらに「Xの業務に対する熱心さ等を評価して、特別に支給」するという趣旨で「追加業務」という費目があり、支払われない月もありましたが、支払われる月には1万4000円〜11万4000円が支払われました。
しかし、時間外手当に類する名目のものはありませんでした。
そこで、Xさんは、Y社に対し、割増賃金合計775万8029円、付加金575万6920円(および各遅延損害金)の支払いも求めて提訴しました。
そして、判決では、未払割増賃金737万9533円、付加金520万2182円(および各遅延損害金)が認められました。
本件の争点は、⑴Xさんが労基法上の労働者に該当するか、⑵Xさんの休憩時間、⑶1か月単位の変形労働時間制の有効性、⑷「追加業務」の費目の支給による固定残業代の合意の有無の4点です。
本件で着目するべきなのは、⑴についての判断です。
従来の判例では、「指揮監督下の労働」、「労働の報酬対償性」、「専属性の程度」といった要素で労働者性が判断されております。
本件でも従来の判例と同様に、①業務内容・遂行方法に対する指揮命令や、②時間的場所的拘束性、加えて、本件の特徴であるXさんの働き方が業務委託契約に切り替える前とまったく同じ業務・シフト管理であったことから、③労働契約との内容との近似性、の3点を根拠にXさんの労働者性が肯定されました。
(弁護士 櫻井 彩理)