第7回目は「アートコーポレーションほか事件」です。この事件は、未払残業代請求と、不当利得返還請求が問題となりました。
Xさんらは、引越会社のアートコーポレーション株式会社(以下、「Y社」といいます。)と雇用契約を締結し勤務していましたが、Y社に対し、①未払いの時間外割増賃金及び遅延損害金の支払い、②引越事故責任賠償金名目で負担させられた金員について不当利得に基づく返還及び遅延損害金の支払い、③主位的に未払の通勤手当及び遅延損害金の支払い、予備的にアルバイトに通勤手当を支給しない旨の規定が労働契約法20条に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払い等、各請求を行いました。
ここでは、①と③に着目して解説いたします。
判決では、①について、Y社においては、制服を着用することが義務つけられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっていたところ、その時間及び朝礼の時間以降はY社の指揮命令下におかれたものと評価することができ、これに要する時間は、「それが社会通年上相当と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当する」として、これを前提に始業時刻を認定し、未払割増賃金を算定しました。
③について、主位的請求には理由がないとしつつ、予備的請求の、Y社における正社員とアルバイトであるXの間における通勤手当に係る労働条件の相違は、労働契約法20条に違反する不法行為と認められると判断しました。
まず、労働基準法上の「労働時間」該当性は、判例において「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」と判示されております。
本判決では、Y社においては、制服を着用することが義務つけられ、朝礼の前に着替えを済ませることになっているという事情をもとに、着替えの時間から労働時間であると判断されたと言えます。
そして、労働契約法20条は、期間の定めのある労働者とない労働者の間で労働条件に不合理な差異をつけることを禁止しております。
本件で問題となった期間の定めのある労働者とない労働者の間の通勤手当の差異について、ハマキョウレックス事件(最二小判平30・6・1労判)という判例があります。
判例では、「通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の高さとは直接関連するものではない、加えて通勤手当に差異を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない」として通勤手当の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであると判断しております。
本判決の判断は、同判決を踏襲したものといえるでしょう。
(弁護士 櫻井 彩理)