第12回は「三井住友トラスト・アセットマネジメント事件」です。
従業員の管理監督者該当性及び未払残業代の有無等が争われた事案です。
まず、管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指します。ある従業員が管理監督者に該当する場合、同人について、その地位の特殊性ゆえに労基法上の労働時間規制が適用されません(労基法41条2号)。
本件では、投資信託の運用等を行うY社の従業員であるXさんが、Y社に対し、未払の残業代等を請求したところ、Y社からXさんが管理監督者に該当する等といった反論がなされ、Xさんの管理監督者該当性や未払残業代の有無、未払残業代の額等が争われました。
裁判所は、管理監督者該当性について、労基法41条2号の趣旨を踏まえ、①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである、との判断基準を示しました。
その上で、裁判所は、①から③について、次のように判断しました。
まず、①について、Xさんの担当業務は、主に顧客である投資家向けの月次レポート等の確認業務や作成業務等である。専門的かつ重要な業務ではあるものの、経営上の重要事項に関する業務であるとはいえず、Xさんが他に人事労務管理業務を行っていたわけでもない。これらの事情を踏まえ、裁判所は、Xさんが実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとはいえない、と判断しました。
次に、②について、業務の閑散期において、比較的自由に時間を使うことが許容されていたこと、遅刻や早退があっても賃金から控除されることもなかったことを踏まえると、労働時間について一定の裁量があったといえる、と判断しました。
そして、③について、Xさんの年俸は、Y社の社員の上位約6%に入るほどのものであり、待遇面では、一応、管理監督者にふさわしいものであったといえる、と判断しました。
以上を踏まえ、裁判所は、管理監督者該当性について、②Xさんに自己の労働時間についての一定の裁量があり、③管理監督者に相応しい待遇がなされているものの、①実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとは認められないことから、管理監督者には該当しない、と判断しました。
また、本件では、未払残業代に関して、XさんがY社の始業時間前に出勤した日における労働時間の取扱い(いわゆる早出残業の労働時間該当性)等についても争われました。
この点について、裁判所は、労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指し、客観的に見て労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かに照らして判断される、と述べました。
その上で、本件の早出残業について、裁判所は、次のように判断しました。
Xが行っていた作業は、日経新聞を読む等といった金融市場に関する一般的な情報の収集作業である。当該作業について、Y社の業務に役立つ場合もあることは否定できないものの、Y社が所定労働時間外に当該作業をするようXさんに義務付けていたことを裏付ける証拠もない。そのため、当該作業について、Y社の指揮命令下にあったとはいえず、当該作業時間は労働時間には該当しないというべきである。
よって、裁判所は、Xさんの早出残業については、Xさんの残業代請求を認めませんでした(なお、早出残業以外のXさんの残業については、残業代請求が認められています)。
管理監督者該当性について、裁判所は、本件のように、①の経営者と一体的な立場であるか否かを重視する傾向にあります。管理監督者該当性が争われた近時の裁判例としては、コナミスポーツクラブ事件(東京高判平30.11.22労判1202号70頁)等が挙げられます。
弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。