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【旬の判例】~第35回 「NECソリューションイノベータ事件」

第35回は「NECソリューションイノベータ事件」です。

配転命令(転勤)の有効性及び配転命令違反を理由とする懲戒解雇の有効性が争われた事案です。

まず、事案の概要について、XさんはY社関西・西日本オフィスに所属しているY社の従業員でした。Y社は、平成30年7月、組織の構造改革や業務の効率化を図るため、Y社関西・西日本オフィスを閉鎖し、玉川事業所に業務を集約させることにしました。そこで、Y社は、平成31年3月1日、Xさんに対し、玉川事業所への転勤を命じました(以下、「本件配転命令」といいます。)。しかしながら、Xさんは本件配転命令に応じませんでした。また、Y社は、平成31年4月1日、Xさんに対し、平成31年4月15日までに玉川事業所に着任するよう命じましたが、Xさんは、当該業務命令にも応じませんでした。そこで、Y社は、Xさんの当該業務命令違反について、懲戒委員会を開いた上で、Y社就業規則上の「職務上の指示命令に反し、・・・、職場の秩序を乱し、または乱そうとした者」という懲戒事由に該当し、且つ、会社秩序を著しく乱すものであると判断し、Xさんを懲戒解雇しました(以下、「本件懲戒解雇」といいます。)。

これに対し、Xさんが、本件配転命令が権利濫用により無効であると主張した上で、本件懲戒解雇が無効であると主張し、XさんがY社の労働者としての地位にあることの確認訴訟や懲戒解雇無効を前提とする未払賃金等の請求訴訟を提起しました。

配転命令の有効性について、第27回の旬の判例「ビジネスパートナー従業員事件」(https://hk-plazalaw.com/column/hanrei027)でも取り上げたように、配転命令について、①業務上の必要性が存在しない場合、②(業務上の必要性が存在するとしても、)他の不当な動機・目的をもってなされている場合(退職に追い込む目的等)、③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合等の特段の事情がある場合、権利濫用として無効と判断されてしまいます。この点、①について、労働力の適正配置・業務運営の円滑化等の事由が認められれば、業務上の必要性の存在が肯定される傾向にあります。また、③について、労働者の家庭の事情、現在の勤務地に継続して勤務することに対する期待の程度、配転命令にあたって適切な説明を受けていたか等といった観点から判断されることになります。

裁判所は、①(業務上の必要性)について、a当時、Y社の時価総額が大幅に低下しており、経営状態を改善するための様々な方策を講じる必要性があったこと、b関西・西日本オフィスの閉鎖や玉川事業所への業務の集約について、組織の構造改革や業務の効率化を図るものであり、経営改善に向けて講じられる策の一つであるといえること、c閉鎖する事業所の選定に不自然・不合理な点が見受けられないことを踏まえ、業務上の必要性があると判断しました。

次に、②(不当な動機・目的)について、a本件配転命令以前において、Xさんを退職に追い込もうとするような働きかけが特段見受けられないこと、bY社が本件配転命令以前にXさんに対し、従前の勤務場所と同じ場所の出向先の提案等を行っていたこと、c他に退職強要に近い執拗な退職勧奨が行われた様子が見受けられないこと、d業務上の必要性があることを踏まえ、不当な動機・目的はないと判断しました。

そして、③について、aXさんが重い病気を抱えた母親・長男の介護・育児のため、単身赴任をしたり、家族を連れて転勤することができない旨主張している。しかしながら、XさんがY社との面談の場において当該事情を説明していなかった他、XさんがY社による事情聴取を拒絶していた(Y社が必要な調査を行っているのに対し、Xさん自ら家庭の事情にかかる説明の機会を放棄していた。)そのため、bY社が本件配転命令時点において、Xさんの家庭の事情を知る由もなかったのであり、当該事情を踏まえずに本件配転命令の有効性を判断すべきである。また、cXさんの母親や長男の病状についても、現住所地以外の医療機関や他の親族等でも対応が可能である(家族を伴う転居や単身赴任が物理的・現実的に不可能ではない)。そのため、本件配転命令について、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとはいえない、と判断しました。

よって、裁判所は、本件配転命令が有効であると判断しました。

また、裁判所は、本件懲戒解雇についても、a本件配転命令が有効であること、b懲戒手続に不備がないこと、cXさんの本件配転命令違反を放置した場合、企業秩序を維持することができないことが明らかであることを踏まえ、本件懲戒解雇が客観的に合理性があり、社会通念上も相当であるとして有効であると判断しました。

本判決の特徴としては、労働者が会社側からの面談を拒否したことにより、会社側が労働者の私生活の状況を認識できなかった場合、会社側が認識した事実を基にして労働者の不利益性を判断すべきであるとした点が挙げられます。第27回の旬の判例とともに、労働者に転勤を命じる際に参考となる事案です。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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