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【旬の判例】~第42回 「関西新幹線サービック事件」

第42回は「関西新幹線サービック事件」です。

本件では、コロナ禍の下での出勤指示の適法性が争われました。
具体的には、特定の従業員に出勤指示をしたことが、他の従業員との間で不利益な取扱いをするものとして、不法行為に該当するかが問題となりました。

事案の概要としては、以下の通りです。
XさんはY社で勤務し、新幹線車内の清掃及び簡易な修繕業務に従事していました。新型コロナウイルス感染症の拡大により、Y社はXさんに自宅待機を命じ、自宅での課題の作成及び提出を求めました。しかし、Xさんは自宅待機時、課題を提出しませんでした。すると、Xさんは、Y社より自宅待機と指定されていた日に、勤務変更があったとして、出勤を指示されました。

Xさんは、出勤指示に応じましたが、課題を提出した他の従業員は自宅待機時に出勤指示を受けていなかったことから、不必要に新型コロナウイルス感染症への感染の危険にさらされたと主張して、Y社の出勤指示(以下「本件出勤指示」)は不法行為に該当するとして、慰謝料100万円を請求しました。

裁判所は、本件出勤指示が不法行為に該当するかについて、以下のような基準を示しました。

出勤指示等の業務指示が他の従業員との間で不利益な取扱いをするものとして不法行為に該当するのは、Y社には就業規則上、Xさんら従業員に対し業務の具体的内容を決定する人事上の裁量権を有することから、Y社が一定の業務への従事を指示することによって当該裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した場合であるとしました。

そして、この裁量権の逸脱・濫用の判断にあたっては、①当該業務指示に係る業務上の必要性、②当該業務に従事することによって当該従業員に生ずる不利益の程度、③従業員間における業務内容に関する負担の相違の有無、程度、合理性(他の従業員との公平性)といった観点から検討するのが相当であるとの判断枠組みを示しました。

裁判所は、上記判断枠組みに則し、Y社に裁量権の逸脱・濫用があったか否かについて以下のように判断しました。

まず、①業務上の必要性について、本件出勤指示がされた当時、新幹線の運行本数は減少していたものの、なお相当の本数が運行を継続しており、1日当たり100人を超える人数が出勤して清掃業務等に従事する必要があったことから、本来は不要な業務をあえてXさんに割り当てたのではなく、Y社の業務上の必要に基づいて発せられたとしました。

次に、②不利益の程度について、本件出勤指示は、電車等による通勤を要するものの、これは、Y社の事業所で業務に従事する従業員に等しく必要となる行為であって、新型コロナウイルスが拡大していたことを考慮しても、これを特別な負荷と評価することまではできないこと、もともと本件出勤指示と同種の勤務に従事することが予定されていたこと等からすると、Xさんに対して、特別に重い負担や不利益を課す業務への従事を指示するものと評価することはできないとしました。

そして、③従業員間の負担の公平については、Y社が人事権を行使して各従業員に対して業務の具体的内容を割り当てるにあたっては各従業員の労働時間内における勤務の成果や態度のみならず、勤務時間外の言動や家族事情その他の幅広い事情を考慮することができると解され、自宅待機中に課題を作成して自ら資質の向上や知識の定着といった能力の開発を行うことができる者に対し、優先的に自宅待機を割り当てることにしたのは一定の合理的理由があり、課題提出者を優先して自宅待機としたY社の運用が従業員に一定の業務上の負担の相違を生じさせるものであったとしても、その相違の程度が著しいということはできず、従業員間の公平を害するものということはできないとしました。

結論として、裁判所は、本件出勤指示がY社の業務内容の指定に関する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものとはいえず、不法行為上、違法性があるとは認められないとしました。Xさんの請求は棄却され、慰謝料の請求認められませんでした。

本判例では不法行為に該当しませんでしたが、従業員間の負担が異なる業務指示をする場合、それが従業員に対する不法行為となる場合もあるため注意が必要です。本判例を参考に業務指示の運用に問題がないか見直してみてはいかがでしょうか。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)

札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

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