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【旬の判例】~第47回 「医療法人社団雄仁会事件」

第47回は、医療法人社団雄仁会事件です。

本件では、企業が団体交渉に応じなかったことが不当労働行為(労働組合法7条2号)に該当するかどうかが争われました。
(東京都労委令和4.10.18命令 労働判例1291号)

1 事案の概要

医療法人社団雄仁会(以下「本病院」。)に勤務していた職員Xさんは、自身の労働条件が不利益に変更されたことを受けて、中小企業の労働者が企業の枠を超えて個人で参加しているユニオン(いわゆる「外部ユニオン」。以下「本ユニオン」。)に参加し、本病院に対して勤務条件の交渉を求めました。

しかし、本病院は、Xさんが所属した本ユニオンとの交渉を拒否しました。

そこで、Xさん及び本ユニオンは、本病院が団体交渉を拒否したことは不当労働行為(労働組合法7条2号)に当たるものであるとして、団体交渉の実現を求めるために争いました。

2 団体交渉をめぐる近年の動向

労働者の労働組合離れもあり(組合組織率(労働者の組合加入率)は、1970年代は約35%でしたが、2021年は16.9%にまで減少しています。)、使用者と労働組合の集団労働紛争は、近年減少傾向にあります。

他方、従来は、企業別に組織された労働組合に加入して活動すること(例えば、株式会社Aの従業員であれば、株式会社Aの他の従業員が設立した組合に参加すること)が目立っていましたが、近年は、会社からの不利益処分を契機として、それに不満を持った従業員が会社外の地域ユニオンに参加して活動するケースが目立ってきています。

企業別に組織された労働組合であれば、会社の評判を落とすことは自身の職場の評価を落とすことにも直結するので、行き過ぎた行為を控える動機が生じます。

しかし、会社外の地域ユニオンの場合、会社の評判を落とすことによる不利益はおよそ存在しないため、ビラの拡散、街頭演説等の行き過ぎた行為が行われるケースが多くなります。

このような中で、企業としては、どこの誰とも分からない外部ユニオンからの団体交渉に応じる必要があるのかどうか、苦慮する事態が生じています。

3 労働委員会の判断

本件で、本病院は、「本ユニオン内では代表権争いが生じており、正式な代表者が決まっていない状況なのであるから、本ユニオンの正式な代表者が確定するまでは、団体交渉に応じるのを留保する。」と主張して争っていました。

しかし、労働委員会は、本ユニオンの代表権争いは本ユニオンの内部的な問題に過ぎす、本ユニオンが対外的に労働組合としての団体性を有していることは明らかであると判断して、本病院の上記主張を排斥しました。

その上で、本病院の対応は団体交渉の不当破棄であると認定し、本病院に対して、本ユニオンと団体交渉をする命令を出しました。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。

企業は、労働組合との誠実団体交渉義務を負っており、労働組合からの団体交渉の申し入れを正当な理由なく拒絶することは認められません。

それは、労働組合と評価できる団体性を持った組合である限り、外部ユニオンも例外ではありません。 読者の皆様の会社において、外部ユニオンからの団体交渉の申し入れがあった際には、対応にご留意いただけましたら幸いです。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

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