第56回は、カンプロ事件(茨城県労委 令4.10.20命令)です。
本件は、不当労働行為のうち、不利益取扱いの禁止(労組法7条1号前段)及び支配介入該当性(労組法7条3号本文前段)が問題となった事案です。
労組法7条1号前段は、使用者に対し、労働者が労働組合の組合員であることや労働組合に加入し若しくはこれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことをもって、労働者を解雇その他の不利益な取り扱いをすることを禁止しています(不利益取扱いの禁止)。
また、労組法7条3号本文前段は、使用者に対し、労働者による労働組合の結成・運営について、支配したり介入したりすることを禁止しています(支配介入の禁止)。
不当労働行為に対する救済手段として、主に労働委員会を通じた救済と裁判所を通じた救済があり、本件では前者の労働委員会による救済申し立てがなされました。
次に事案の概要について、X1さんはX2組合(合同労組、社外の労働組合)の組合員であり、Y社の従業員です。X1さんは、Y社の従業員複数名に対し、グループLINEを通じて、X2の組合への加入を勧誘するメッセージを送信しました(以下、「本件メッセージ」といいます。なお、本件メッセージの中には、事実と異なる記載があったようです。)。Y社は本件メッセージの送信行為について、Y社の信用・信頼を失墜させたとして、X2さんに対し減給の懲戒処分(以下、「本件処分」といいます。)をしました。その後、Y社は、Y社の従業員に対し、本件処分の内容を公表しました。
これを受けて、X1さんとX2組合は、一連のY社の行為等について、労組法7条1号前段の不利益取扱い、同3号本文前段の支配介入に該当するとして、茨城県労働委員会に対し、救済申し立てを行いました。
茨城県労働委員会は、本件処分について、本件メッセージの送信は、組合への加入勧誘を行う目的でなされたものである旨、その内容が一部事実に反しているものの、X1さんに虚偽の事実を送信したとの認識がなく、Y社の信用・信頼を失墜させる意図を裏付ける証拠がない旨、本件処分が懲戒処分としては重すぎるものと判断せざるを得ず、相当性を欠く旨認定しました。その上で、茨城県労働委員会は、本件処分がX1さんに対する不利益取扱いに該当すると判断しました。
併せて、茨城県労働委員会は、一連の処分について、組合員や従業員に対し、組合への加入や何らかの関与を行った場合、本件処分のような懲戒処分等がなされるおそれを抱かせ、ひいては、従業員の組合への不参加、組合員の脱退等を招きかねないと判断し、組合活動・運営を阻害するおそれがあると判断しました。その上で、一連の処分について、X2に対する支配介入に該当すると判断しました。
以上を踏まえ、茨城県労働委員会は、Y社に対し、本件処分の取消しやX1さんに対する減額分の給与の支払、支配介入の禁止、及び、一連の行為について、茨城県労働委員会による不当労働行為の認定がなされた旨の文書を社内に掲示すること等を命じました。
前回の旬の判例は、不当労働行為のうち、誠実交渉義務(労組法7条2号)が問題となりました。本件は、不当労働行為の内、不利益取扱いの禁止(労組法7条1号前段)及び支配介入該当性(労組法7条3号本文前段)が問題となり、いずれも労働委員会によって認定されました。労働組合との交渉対応にあたって、参考となる事案であると存じます。
弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)
札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。