弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【旬の判例】~第22回 「アンドモワ事件」

第22回目は「アンドモワ事件」です。

本件は、アンドモワ株式会社(以下「Y社」といいます。)から解雇された(以下、「本件解雇」といいます。)Xさんが、Y社に対し、⑴本件解雇が無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認や未払賃金等の支払いを求めるとともに、⑵本件解雇にかかる慰謝料の支払いを求めた事案です。
Xさんは、平成30年6月1日にY社に入社し、Y社が経営していた飲食店の店長として働いていました。ところが、Y社は、令和2年頃より、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により自身が経営している飲食店の売上が大きく落ち込み、業績回復の見通しも立たないような状況下に置かれてしまいました。そこで、Y社は、早急に経営状態を見直さないと、近い将来、資金繰りが立ち行かなくなるおそれがあると判断し、令和2年3月頃、収益性の高い店舗のみを残し、それ以外の収益性の低い店舗については、撤退する方針を固めました。Y社は、このような方針の元、Xさんが勤務していた店舗の経営から撤退する旨決定し、XさんがY社の整理解雇の対象となりました。
Xさんは、本件解雇前にY社の本社スタッフから電話で「近日中に重要な書類が届くので確認しなさい」という趣旨のことを言われただけで、Y社からそれ以上の説明を受けることはないまま、令和3年6月18日頃、解雇予告通知書を受領しました。

本件において、整理解雇の有効性が争点となっています。一般的に、裁判所は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選定の合理性、④解雇手続の妥当性の4要素を踏まえ、整理解雇に客観的に合理的な理由があるかどうかや社会通念上相当性を有するものであるかどうかを検討し、整理解雇の有効性を判断しています。本判決もこれと同様の判断枠組を踏まえ、本件解雇の有効性を判断しています。

まず、①について、収益性の高い店舗のみを残す判断をしたことについては合理性があり、それ以外の経費削減措置では、資金ショートのおそれを回避することは困難である。そのため、人員削減の必要性があると判断しました。
次に、②について、本件解雇当時、他に解雇回避のために現実的にとることができる措置がほとんどなかったとして、整理解雇がやむを得ないものであった旨判断しました。
さらに、③について、Xさんの勤務していた店舗について、収益性が低い店舗であったこと、余剰人員を他の部署に配置することも困難であったことから、Xさんを解雇の対象者とした点について、不合理であるとはいえないと判断しました。
最後に、④について、Y社がXさんに対し、整理解雇の必要性やその時期・規模・方法等について十分な説明がなされていない。(新型コロナウイルス感染症が流行していたとはいえ、)Xさんに対し、個別に整理解雇の必要性等を説明したり、協議したりする場を設けることが現実的に不可能であったとは考え難い。よって、本件解雇について、手続の妥当性が著しくかけていたと言わざるを得ないと判断しました。

以上を踏まえ、裁判所は、④の解雇手続の妥当性を著しく欠いていることを重視し、社会通念上相当性を欠く解雇であるとして、本件解雇が無効である旨判断しました。一方で、⑵の本件解雇にかかる慰謝料請求については、手続の妥当性を著しく欠いているとはいえ、整理解雇の措置自体についてはやむを得ない状況であったことや本件解雇の過程において、Xさんの名誉や人格を傷つけるなどの違法・不当な行為が見受けられないこと等の事情を踏まえ、本件解雇により格別の精神的苦痛が生じていたとは認められないと判断し、慰謝料請求を認めませんでした。

整理解雇について、前記4要素のうち1つでも不足しているものがあると、整理解雇が無効であると判断されてしまう傾向にあります。そのため、整理解雇を実施する場合、上記4要素を念頭において、慎重に手続を進める必要があります。

弁護士 小熊 克暢(おぐま かつのぶ)

札幌弁護士会所属。
2020年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。

最近のコラム