『ビジネス法務』2022年10月号の特別企画は「会社のルール・指示に従わない従業員への労務対応」です。いつの時代にも「問題社員」をめぐるトラブルが後を絶ちません。近年はテレワークの普及により営業秘密を持ち出すケースが見られたり、多様なワークスタイルが認められる一方で、「ルール違反」の副業・兼業に従事する人も出てきています。こうした状況下で「昇進・配置転換・転勤拒否」に関する事例が若手従業員を中心に徐々に増えてきています。どのように対応すればいいのか。人事措置の判断ポイントが解説されています。
- Ⅰ 配置転換・転勤拒否
- 1 配置転換・転勤とは
- 2 非常に広汎な裁量が認められている使用者の配置転換・転勤命令権
- 3 配置転換・転勤拒否問題は契約解釈が出発点
- 4 職務や転勤限定契約がない場合の配置転換・転勤命令拒否は解雇が原則
- 5 就業規則を確認する
- 6 説明事項
- 7 配置転換・転勤命令が無効となる場合
- 8 人事措置のポイント
- Ⅱ 昇進拒否
- 1 昇進拒否が増えてきている
- 2 昇進命令権
- 3 昇進命令権の濫用
- 4 責任に見合う待遇を与えるべき
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
近年では、「昇進・配置転換・転勤」を拒否する従業員が増えているようです。
企業経営にあたっては、有為な従業員の確保が重要である一方で、企業組織内の人事システムを維持することも重要です。
本記事では、「昇進・配置転換・転勤」が拒否された場合における使用者の対応、拒否されないために使用者が意識すべきことにつき、解説がなされております。
1.昇進拒否
昇進とは、役職を上昇させることをいい、昇格とは、職能資格制度において資格や等級を上昇させることをいいます。このうち、昇進は職能給との関連性がなく、昇格は職能給の増額をもたらします。
昇進命令権は、人事権を根拠とするため、使用者に広範な裁量が認められます。昇進命令の拒否を理由に、従業員に処分を行うことは可能ですが、そういった場合、有能な人材確保が困難となる可能性があります。
昇進を拒否される事例は、責任が重く、労働時間が長くなる一方で、権限や賃金が変わらず、割増賃金も支払われないといった、見合った待遇が与えられないという事例が多いようです。
そのため、使用者としては、役職に見合った待遇を与えるという対応が求められることになります。
2.配置転換・転勤の拒否
本記事によれば、同一の企業内にて、職務内容が変更されるものが「配置転換」と称され、同一の企業内にて、勤務場所が変更されるものが「転勤」と称されます。
(1)職務限定契約や勤務地限定契約がある場合
職務限定契約や勤務地限定契約がある場合、原則として、配置転換命令・転勤命令を出すことができません。したがって、使用者が命令を出すにあたっては、まずは、就業規則等の記載、個別の合意の有無等、労働契約の内容を確認すべきです。
なお、個別の合意があったといえるためには、明示の書面の合意が必要とするというのが裁判例の傾向です。
(2)配置転換命令・転勤命令が権利濫用として無効となる場合
就業規則等に配置転換命令及び転勤命令の定めがあり、職務限定契約や勤務地限定契約がない場合であっても、配置転換命令・転勤命令が権利濫用であるとして無効となる場合があります。判例は、まず、①命令に業務上の必要性がある場合、原則として、命令を有効と考えます。もっとも、特段の事情として、②命令が不当な動機・目的がある場合、③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合等の事情があれば、権利濫用にあたり無効と考えています。
②の場合とは、例えば、嫌がらせの目的がある場合などが考えられます。③の場合とは、例えば、育児・介護を理由とする転勤拒否などが考えられます。特に、②の目的は、裁判例の傾向からして、周辺事実の積み重ねにより、認定されることも多いようです。
(3)配置転換命令・転勤命令の拒否の対応
上述の通り、使用者には、配置転換命令権及び転勤命令権につき、広範な裁量があります。したがいまして、配置転換命令・転勤命令を拒否した場合、使用者は、拒否を理由に従業員を解雇することができます。事前のトラブルを防止する観点から、従業員に対し、命令を拒否した場合に説明を行うなど、手続適正を確保される措置を取られるべきでしょう。
もっとも、近年では、配置転換命令・転勤命令につき打診をする段階で、自主退職する従業員も増えているようです。有為な人材確保の観点から、退職防止と、配置転換命令・転勤命令のバランスを考えることが、近年重要となっています。
従業員とのトラブルを防ぐ観点から、使用者の対応としては、対象従業員と話し合いの上、勤務地を限定したり、採用時に転勤の範囲を明確にするといった配慮を行う傾向にあります。
「昇進・配置転換・転勤」の命令にあたっては、上述した注意や配慮が必要となります。ぜひ本記事をご一読ください。
(弁護士 西口 阿里沙)
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)