弁護士法人PLAZA総合法律事務所 PLAZA LOW OFFICE

【旬の判例】~第61回 「エイチ・エス債権回収事件」

第61回は、「エイチ・エス債権回収事件」です。
本件では、69歳時点での雇止めの適法性が争われました。

1 事案の概要

~H26年6月:Xさんは、大手信託銀行に勤務し、監査業務を担当

H28年1月~:Xさんが同銀行を定年退職し、Y社(資本金5億円の大会社)に就職(以下「本件労働契約」という。)

H31年2月:Y社からXさんに対し、本件労働契約を更新しない旨の通知(以下「本件雇止め」という。)

H31年5月:Xさんは、本件雇止めは無効であると主張してY社を提訴

2 雇止め法理について

労働契約が期間の定めのある有期契約であれば、契約期間満了後は、労働契約は当然に終了し、労働者は契約の更新を要請できないのが民法上の原則です。

しかし、有期契約の不更新の名の下に、使用者の一方的な判断による不当解雇が行われる事態の発生を防ぐために、労働契約法は民法上の原則を修正し、契約の更新拒絶に合理的な理由が認められない限り契約更新拒絶は無効になると規定しています(同法19条)。

3 本裁判所の判断

本裁判所は、以下の理由で、本件雇止めは有効であると判断しました。

(1)事情①及び②の考慮:契約更新への合理的期待

①労働契約書の記載:本件労働契約に関する書面には、「契約更新の可能性あり(原則更新)」との記載があった。

②業務の常用性:Xさんが従事していた業務は監査業務であるところ、Y社は会社法上の大会社であり、監査報告書の作成提出が義務付けられている会社であった。したがって、XさんがY社において従事していた監査業務というのは、Y社の業績によりその実施の有無が毎年変動し得るような性質の業務ではなく、Y社が企業活動を継続する限りはおよそ実施が不可欠な業務であった。

⇒これらの事情からすれば、Xさんには、契約更新についての合理的な期待が生じていたものと言える。

(2)事情③及び④の考慮:契約更新の期待の程度

しかしながら、

③労働契約書の記載:本件労働契約書には、「契約更新の基準として勤務成績、態度、健康状況、能力、能率、作業状況等を総合的に判断して契約更新の有無を判断する」との記載もあった。

④他の社員の勤務状況:また、Y社には、70歳を超えて、Xさんと同様のフルタイムでの契約社員として勤務していた者はいなかった。

⇒これらの事情からすれば、Xさんが70歳を迎えることになるH31年3月以降の契約更新について、強度の期待を抱くことが合理的であったとまでは認められない。

(3)事情⑤及び⑥の考慮:Xさんの勤務態等

そのうえで、

⑤勤務態度:本件において、Y社では、Xさんの監査対応が原因となって法務省からの指導勧告を受ける事態が発生していた。この点、Xさんは、自身の対応が原因ではないと主張しているものの、Xさんの前任、後任の担当者の下においては同省からの指導勧告がなかったことも考え合わせると、Xさんの対応が起因となっていたものと伺われる。

⑥改善可能性:Xさんは、上記について、Y社から改善指導の指摘を受けるも、逆上するなどの対応を取り、改善指導を受け止める様子は見られなかった。

⇒以上の事実を考慮すると、本件雇止めには合理的な理由が認められる。

4 おわりに

今回もお目通しいただき、ありがとうございました。
契約書には『有期契約(原則更新なし)』と記載していても、それだけで直ちに契約不更新の対応を取れるわけではありません。
雇止めを検討されている会社様がおられましたら、万全を期すべく、ご相談をいただけたらと存じます。

弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)

第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。

最近のコラム