第64回は、F-LINE事件です。
【東京地裁令和3年2月17日判決・労判1306号95頁】
本件では、配転命令に従わずに出社を拒否した従業員に対してなされた懲戒解雇処分の有効性が争われました。
1 事案の概要
原告であるXさんは、平成23年に、「味の素物流株式会社」に入社し、物流ドライバーとして勤務をしていました。
その後、平成30年に、「味の素物流株式会社」は、「カゴメ物流サービス株式会社」らとの経営統合を図り、「F-LINE株式会社」(以下「Y会社」)となりました。
Xさんは、本件経営統合の影響も相まって、平成31年1月1日付で、それまで勤務していたA営業所からB営業所への異動を命じられました(以下「本件配転命令」)。
しかし、Xさんは、本件配転命令を拒否し、一度もB営業所に出社することなく、音信不通となったため、Y会社は、平成31年3月1日付でXさんを懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」)しました。
これを不服としたXさんは、本件配転命令は、自身に不当な負担を課す異動命令であり無効であるから、本件配転命令を前提としている本件懲戒解雇処分も無効であるとして、給与の支払い請求訴訟を提起しました。
2 配転命令
配転命令とは、使用者から従業員に対して発せられる、同一使用者の下での職務内容や勤務場所の変更命令のことをいいます。
配転命令は、使用者の広範な労務指揮権を根拠とするものであり、当該配転命令を行う業務上の必要性が存在しない場合や、不当な動機・目的に基づいて発せられた場合などの特段の事情のない限り、違法になることはありません(最高裁昭和61年7月14日判決・労判477号6頁参照)。
3 本裁判所の判断
本裁判所も、以下の事実を踏まえて、本件配転命令及び本件懲戒解雇処分は有効であると判断し、Xさんの請求を棄却しました。
①本件では、XさんがA営業所に勤務していた際、同営業所の他の従業員に対して威圧的な言動を示すなどのトラブルを起こした結果、心身に支障を来たして休業を余儀なくされる従業員が生じたり、取引先から効率的な運送の妨げになっているとのクレームが生じたりしていた。
② ①がXさんから同営業所の他の従業員に対するパワーハラスメント行為に該当するとまで断言できる証拠は存在しないが、A営業所における人員配置を見直す必要が生じていたことは否定できない。
③他方、A営業所とB営業所の運送業務内容については特段の差異があるものではなく、Xさんに大きな心身的負担を生じさせるものではない。
④以上を踏まえると、本件配転命令には合理性が認められる。そして、本件配転命令には合理性が認められる以上、Xさんが本件配転命令に従わずにB営業所への出勤を拒否し、2か月以上もの間会社との連絡を一切取らなかったことを根拠として行われた本件懲戒解雇処分は、有効なものと言える。
4 おわりに
今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
企業の配転命令は、基本的には広範なものとして認められていますが、採用時に職種限定や勤務地限定の合意があった場合には、配転命令も制限される可能性があります。
顧問先の会社様におかれましては、どうぞお気軽にご相談ください。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。