『ビジネス法務』2025年1月号の特集2は「最新動向をふまえた就業規則・労働契約の見直し」がテーマです。その中に、「『有期労働者の就業規則』見直しと無期転換」(執筆:鈴木蔵人弁護士)があります。現在までの実務の状況をふまえて、有期雇用労働者および無期転換後における労働者の就業規則の見直しについて説明されています。
- Ⅰ 有期労働者の就業規則
- 1固有の就業規則を作成していない場合
- 2更新上限
- 3無期転換
- 4休職
- Ⅱ 無期転換後の就業規則
- 1適用を受ける就業規則の整理
- 2定年
- 3休職
- 4配転
- 5賃金の改定
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 はじめに
本稿では、無期転換申込権に関する就業規則の策定、無期転換後の就業規則の整備について解説がされています。
2 無期転換ルール
無期転換申込権とは、通算契約期間が5年を超える有期労働者に与えられている無期労働契約への転換請求権のことです(労働契約法18条)。平成24年の労働法改正によって設けられた規定であり、平成25年4月以降の契約が期間算定の対象になっています。
もっとも、有期労働契約者の無期転換申込権は、有期契約が5年を超える場合に初めて認められるものであり、5年を超える有期契約の更新を行わずに5年の期間内で有期雇用契約を終結させること自体は、必ずしも否定されるものではありません(東京高判R4.9.14労判1281号14頁)。
有期雇用契約の締結に際して、当初から有期契約期間は5年未満である旨を就業規則や雇用契約に明記していれば、原則として、これを超える雇用継続への合理的期待は生じないと解されます。
3 無期転換申込権の行使方法
就業規則には、「有期労働者のうち、有期雇用契約に係る通算契約期間が5年を超える者は、現在の有期雇用契約の期間満了日の1か月前までに所定の形式で申し込むことにより、会社との間で、同期間満了日の翌日を始期とする期間の定めのない労働契約を締結したものとみなされる。」という規定があることが一般的です。
しかし、労働契約法上、無期転換申込権の行使は、有期雇用契約の契約満了までに口頭で申し込みを行うことで足りるとされているため、留意が必要です。
4 無期転換後の就業規則ルール:「定年」を具体例として
無期雇用契約者について、正社員の場合と同じ年齢を定年年齢として設定する場合には、特段の問題はありません。
しかし、例えば、正社員の定年が65歳と定められている会社において、61歳から会社に有期雇用契約社員として勤務していた従業員が、66歳の時に通算5年の有期契約を超えたとして無期転換申込権を行使した場合などには、無期雇用契約社員独自の定年に関する規定が定められていないと、対応が不明瞭になってしまいます。
他方で、この無期雇用契約社員独自の定めについて、厚生労働省が作成した「無期転換ルールのよくある質問(Q&A)18」には、「無期転換ルールの趣旨を没却させるような目的で、無期転換時の年齢に応じ定年が無期転換後すぐに到来するように段階的な定年の定めを設立すること(例:無期転換申込権行使時の年齢が66歳の場合は定年は67歳、無期転換申込権行使時の年齢が67歳の場合は定年は68歳とするような場合など)は法の趣旨に照らして望ましいものとは言えません。」と規定されていることには留意が必要です。
5 おわりに
今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。
本稿をきっかけとして、正社員、有期雇用契約社員、無期雇用契約社員の就業規則に不備、不整合がないか確認をいただけましたら幸いです。また、弊所には社労士もおりますので、ご不明点がございましたら、お気軽にご相談をください。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)