『ビジネス法務』2025年1月号の「Lowの視点」は「相続株式をめぐる実務処理上の留意点─議決権行使と株式売渡請求」(執筆:山下眞弘弁護士)です。議決権行使者の権限と決定方法について、株式売渡請求の方法についての実務上、留意すべき点に関して解説があります。
- Ⅰ 相続株式の議決権行使
- 1株式は遺産分割の対象
- 2会社法106条の趣旨
- 3権利行使者の決定方法
- 4会社側からの権利行使の容認
- Ⅱ 議決権の不統一行使
- 1会社法313条3項の解釈
- 2不統一行使を認める論理構成
- Ⅲ 相続株式の売渡請求
- 1株式売渡請求制度に内在する問題点
- 2共同相続株式の売渡請求方法
- 3売渡請求の方法に最適解はあるか
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 はじめに
亡くなった親族が株式を有していた場合、株式はどのように相続されるのか、また、会社は、その相続人を株主として取り扱わなければならないのかなど、疑問に感じたことはないでしょうか。
本記事では、相続した株式の取り扱いについて解説がなされています。
2 相続株式の議決権行使
相続人が複数いる場合、相続した株式は、相続人全員の(準)共有状態となります。
会社法106条は、共有された株式の議決権行使の方法について、権利行使する者(議決権行使者)を1人決め、株式会社に対して氏名・名称を通知しなければならないと規定しています。
そのため、相続人は、相続人中から、議決権行使者を決定しなければならず、この決定は、相続人間の過半数の決定で行われるのが一般的です。
3 議決権の不統一行使について
もっとも、会社法313条において、株式の不統一行使が認められています。株式が複数あり、議決権も複数存在する場合、議決権ごとに賛否分けて行使することができます。そのため、株式共有者は、議決権行使者を決めたとしても、共有者は各人、自己の共有持分に応じる議決権分については、議決権行使者に賛否の指示をすることが可能となり、議決権行使者は、各共有者の指示に従い、議決権を不統一行使する義務を負うことになると考えられています。
4 相続株式の売渡請求
会社側としては、相続により株式が分散してしまうことを防止したいと考えることもあるのではないでしょうか。その対策として、会社法174条により、株式を取得した者に対し、会社に売り渡すことを請求できる旨を定款に定めておくことができます。この株式売渡請求をするには、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成で可決)を要します(会社法175条、309条)。すなわち、株式の売渡請求について定款に定め、株主総会特別決議で可決することで、相続人に株式を流出させることなく、会社で株式を保持しておくことができることになります。
もっとも、この売渡請求には問題点もあり注意が必要です。会社法175条2項において、売渡請求を受けた相続人は売渡請求をするための株主総会で議決権を行使できないとされており、例えば、会社のオーナー経営者が亡くなり相続が生じた場合、そのオーナー経営者を後継者とする予定であったにもかかわらず、対立する取締役と株主が結びつき画策することで、相続人たる後継者が会社から排除されるという事態が起こる危険もあります。
この対策としては、経営者が後継者に株式を生前贈与しておくなどといった方法が考えられます。
5 おわりに
今回は、相続株式の議決権行使、不統一行使、売渡請求の手続について解説している記事を紹介させていただきました。 特に、会社側としては、株式が素性の知れない相続人に渡ることを避けたいと考えることもあるかと存じます。本記事が、株式に関するルールを見直す参考になりましたら幸いです。
弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)
札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)