第69回は、医療法人社団健医会ほか事件【東京地裁立川支部令5.8.24判決】です。
本件では、新型コロナウイルスが蔓延していた中で、従業員が検温表を提出しなかったことを理由とした解雇の適法性が争われました。
1 事件の概要
本件は、歯科医院を経営する医療法人に勤務していた歯科衛生士が、新型コロナウイルス感染症対策として導入された検温表の提出を長期間にわたって怠り続けたことなどを理由に解雇されたことについて、解雇無効を主張して提訴した事案です。
原告(歯科衛生士)は、被告医療法人に対して労働契約上の地位確認と解雇されてから現在に至るまでの賃金の支払いを求めました。
2 裁判所の判断
(1)裁判所は、以下の点を重視して被告医療法人の解雇を有効と判断しました。
①新型コロナ対策の重要性
令和2年5月には歯科衛生士が新型コロナウイルス感染リスクの最も高い職種と指摘され、日本歯科医師会も歯科医療従事者の毎日の体温計測と報告が有効な対策と指摘していたこと。
②検温表提出の義務付け
被告医療法人は令和2年4月以降、職員に対して出勤時に体温を含む体調報告を義務付け、院長は夕礼でたびたびその遵守を呼びかけていたこと。
③原告の不遵守
原告は、事務局員からの催促や名前を記載された掲示物などによる注意にもかかわらず、検温表の提出を怠り続け、その割合は全出勤日の約85%にも及んでいたこと。
④改善の見込みのなさ
個別指導や夕礼での注意の後も改善せず、最終的には院長との直接対話すらも拒否するに至ったこと。
(2)裁判所は、原告の「頑固なまでの長期にわたる検温表提出に協力せず是正を拒む態度は、本件歯科医院を含む歯科医院の新型コロナウイルス感染症対策における職員に対する検温の重要性にかんがみると、本件歯科医院の存続を危ぶませかねないほどに悪質である」と判断し、解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めました。
(3)原告の反論に対する判断
原告は裁判の中で以下のような反論をしましたが、いずれの主張も退けられました。
①プライバシーの懸念
原告は、検温表提出により生理周期が知られることを懸念した旨主張しましたが、原告は休暇届には「生理二日目」などと記載し自ら生理中であることを開示していたことから、原告の主張は信用できないと判断されました。
②他の職員との不均衡
原告は、他の職員も検温表提出を怠っていたが他の職員は解雇されていない旨主張しましたが、他の職員の不提出頻度は月4回程度であるのに対し、原告の不提出頻度は月8〜22日と、大きく異なるとして原告の主張を退けました。
③解雇努力の不足
原告は、始末書を書かせずに解雇したことは解雇回避努力を尽くしていない旨主張しましたが、度重なる注意があったにもかかわらず改善がなかったことから、始末書を書かせても改善の見込みはなかったと判断し、原告の主張を退けました。
3 おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は検温表を提出しなかったことを理由とする解雇が適法と認められた事案について紹介させていただきました。
企業の皆様におかれましては、自社の従業員を解雇してよいかどうか判断に迷うこともあるかと存じます。
本裁判例からは、企業が感染症対策などの安全衛生上の措置を講じる際、①当該措置の目的や重要性を明確に説明し、定期的に周知すること、②違反者に対しては、口頭での注意、書面での警告など段階的な指導を行い、記録に残しておくこと、③全従業員に対して一貫した対応を取り、特定の従業員だけを不当に扱わないようにすること、④重大な違反行為があっても、まずは改善の機会を与え、それでも改善が見られない場合に段階的に処分を検討することが重要であるといえます。
解雇の判断に迷った際は、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。

弁護士 髙木 陽平(たかぎ ようへい)
札幌弁護士会所属。
2022年弁護士登録。2022年PLAZA総合法律事務所入所。北海道出身。