『ビジネス法務』2024年12月号の連載「労務コンプライアンス」の中で、今月は「未払残業代問題-労働時間管理・固定残業代等」(執筆:中村仁恒弁護士)があります。未払残業代が発生しないようにするための制度設計・運用面に関する基本的な問題を紹介しつつ、近時の重要判例を中心に、実務上の留意点が解説されています。
- Ⅰ 労働時間の適正な把握
- 1労働時間の概念
- 2労働時間の適正な把握
- Ⅱ 労働時間算定の例外
- 1事業場外労働のみなし制とは
- 2「労働時間を算定し難いとき」とは
- 3近時の重要な最高裁判例
- Ⅲ 変形労働時間制、フレックスタイム制
- Ⅳ 固定残業代
- Ⅴ おわりに
<PLAZA総合法律事務所の弁護士解説>
1 はじめに
本稿では、残業代を適正に管理するために、企業が留意すべき事項について解説されています。
2 労働時間の概念
残業代(時間外労働の割増賃金、休日労働の割増賃金、深夜労働の割増賃金の総称。以下同じ。)は、原則として、労働時間に応じて発生します。そのため、残業代管理の前提としては、従業員の労働時間管理が不可欠です。
ここで注意が必要なのは、労働時間とは、法的には、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指すものであり、企業や社員が認識している『勤務時間』とは必ずしも一致しないということです。
具体的には、企業や社員が認識している本来的な業務時間に加えて、業務を遂行するために必要となる準備作業の時間(例えば、更衣時間、業務開始前の打合せの時間、就業後の業務報告書の作成時間など)も労働時間に含まれることになります。
企業は、このような時間が労働時間として適切に管理されているかを、確認しておく必要があります。
3 労働時間の把握方法
労働時間を適切に把握するためには、タイムカード、ICカード、PCの使用時間等の客観的な記録を基礎とするべきです。(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(2017年1月)」参照)
労働者の自己申告によって労働時間を管理している場合には、上記のような方法に変更することが望ましいです。
4 固定残業代制度
固定残業代制を取り入れる企業も増えていますが、近年は、実体賃金と大幅に乖離する固定残業代制度を無効とする裁判例も見られるところですので、注意が必要です。
一例として、最高裁令和5年3月10日第二小法廷判決(労判1284号5頁)は、基本給部分を減少させ、固定残業代部分に本来的には基本給として支払われるべき賃金をも組み入れた固定残業代制度を無効と判断しています。
5 おわりに
今回もお目通しをいただき、ありがとうございました。本稿では、フレックスタイム制の留意点などについても言及されておりますので、ぜひお目通しをいただき、残業代管理の体制整備の参考にしていただけましたら幸いです。
弁護士 白石 義拓(しらいし よしひろ)
第二東京弁護士会所属。
2022年弁護士登録、同年PLAZA総合法律事務所入所。栃木県出身。
協力:中央経済社
公式サイト(http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)